【Vol.806(2024.06.28)】将来の目標、早く決めないとダメ?

厚労省が発表した調査結果で、中1の子ども(2010年生まれ)の54.1%が
「将来、就きたい職業が決まっていない」と答えたことが分かりました。

<第13回 21世紀出生児縦断調査及び第4回21世紀出生児縦断調査の概況>
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/syusseiji/13/dl/gaikyou.pdf

10年前(2001年生まれの子どもが中1だったとき)の同じ調査では50.8%であり、
3.3ポイントの増加となっているようです。

この数値が高いのか低いのか、前回からの増加が有意な差と言えるのかは
判断が難しいところです。

今回の調査結果はあくまでプレーンデータであり、
影響や原因の考察・言及まではなされていませんが、このようなデータが発表されると
「子どもたちのキャリア観が心配だ」「もっと将来の目標を抱きやすい教育を」
という言説は必ず出てきます。

ただ個人的には、「中1で就きたい仕事が決まっているほうがすごくない??」と思います。

せめて義務教育期間内は、焦らずもっとゆっくり将来を考えていい時期だと思うのです。

将来を決めることよりも、いろんな経験を積んで、
将来に対する視野を広げたり選択肢を増やしたりするほうが大切なのではないかと。

少なくとも「将来の希望職業を早く決める」のが
絶対的に正しいという考えに陥らないように注意したいところです。

みなさんはいかがでしょうか?

もちろん、早く決めることのメリットもよく分かっているつもりです。

目標がしっかりと定まっていれば、
それに基づいた行動を取ることができますし合理的ですよね。

例えば弁護士になりたいのなら「たくさん勉強しないと!」みたいな感じです。

しかし、ここで(教育産業に関わる人間として)特に気を付けたいのは、
将来の目標(就きたい職業)をダシにして、
安易に「勉強する理由」を作ろうとしないことだと思います。

もう少し細かく言うと、子どもたちをやる気にさせるために、
将来の夢を見つけさせよう(決めさせよう)としないという意味です。

塾に関わる人間として、子どもたちの勉強に対するモチベーションを上げることは
切っても切り離せない永遠のテーマですよね。

「どうすれば子どもたちがやる気を出してくれるか」、
それこそ日本中の塾人がそこに一喜一憂を繰り返しています。

このとき、将来の目標が決まっていれば自然と子どもたちは主体的になれるので、
学業指導も非常に捗るし、成績向上や志望校合格といった成果にも繋がりやすいです。

ただ、これをやってしまうと、手段と目的が逆転してしまう可能性があります。

つまり「成績を上げる」ことが目的で、「夢や目標を見つける」ことが手段になるということです。

本来は夢や目標を叶えることが目的であって、
成績向上や志望校合格はその手段、あるいは必要条件にすぎません。

理想論かもしれませんが、そうした“塾屋の都合”みたいなもののために
子どもたちの将来の夢を利用するべきではないと思うんですよ。

「夢や目標のために勉強を頑張ろうね」という理屈は同じですが、
根底にある考え方はまったく違うものになってしまいます。

大人から「夢や目標を持て」と言われることに、
うんざりしている子どもたちも少なくありません。

「夢や目標を(今すぐ)決めなさい」と迫られているように感じるからです。

そして「夢や目標を持てない自分はダメなんだ」と、
不要な劣等感を刷り込まれてしまいます。

ただでさえ勉強が苦手で自信をなくしているのに、
成績向上の手段として「夢を決めろ」なんて言われた日には、
ますます自信を失ってしまいかねません。

もはやトドメに近いです。

やはり、ここの順番(手段と目的)は間違えてはいけないと思います。

また、将来の夢や目標を「就きたい職業」という論点だけで考えるのも危険です。

狭義におけるキャリア教育は「職業教育」も含まれますが、
キャリア教育とは本来「自分がどう生きていくか」を考える教育です。

「将来の夢は何?」と子どもたちに尋ねることってよくあると思いますが、
無意識に「どんな職業に就きたいの?」という意味で聞いたりしていないでしょうか。

生き方や人生を考えるにおいて、職業はその一部に過ぎません。

夢を問うのであれば「海外に住みたい」とか「お金持ちになりたい」とか、
「自由な暮らしがしたい」とか「宇宙旅行がしてみたい」といった
抽象的な答えでも十分だと思います。

それがあって、初めて「そのためにどんな職業に就こうかな」と考えればいいのですから。

本来、教育とは子どもたちの可能性について種をまき、広げていく営みです。

夢や目標を決めるのは良いことですが、それを「早く決める」ことに舵を切りすぎるのは、
いわば「絞り込み」であり、種まきや広げていく行為とは逆のベクトルになります。

耕すことも、種まきも水やりも十分に行えていないのに、収穫しようとすべきではありません。

その視点を持って、子どもたちと接していきたいですね。

【今回のまとめ】
・中1の半数以上が、将来就きたい職業が決まっていない
・だからと言って早く決めれば良いというものではないし、
それを勉強させるための材料に使ってはダメ

この情報をシェア
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

安多 秀司 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

目次