リクルート進学総研が実施した「高校教育改革に関する調査」で
興味深い結果が出ていましたので、いくつかシェアしながら一緒に考察してみましょう!
同調査は、学習指導要領や探究、ICT、キャリア教育、大学入試など
高校の「教育改革」に関連する事柄について、先生方に聞き取り(アンケート)したものです。
<高校教育改革に関する調査2024>
https://souken.shingakunet.com/research/pdf/2024_kaikaku_houkoku.pdf
まず私が目に止まったのは、「入試の早期化について」という項目です。
当メルマガでも、大学の年内入試(推薦・総合型選抜など)については
賛否交えてたびたび言及してきましたが、学校の先生方はどう考えておられるのでしょうか。
肯定派、否定派、どちらが多いと思われますか?
結果を見てみると、大学入試の早期化について
「あまり好ましくない」「非常に好ましくない」の合計は63.0%。
対して「好ましい(あまり・非常に、の合計)」としたのはわずか11.5%。
否定派の声のほうがかなり多いという結果となりました。
ここで注目したいのは「好ましくない」とした理由です。
自由記述で寄せられた意見によると
「早く入試が始まるぶん早く進路が決まってしまい、その後の学習意欲の低下が著しい」
「指導要領に沿った履修内容も終わっていないのに入試結果が出るのは困る」
「一般入試を受験する生徒と混在することで、授業や指導がやりにくい」
などのコメントが多くを占められていたようです。
なるほど、確かにそうかもしれません。
塾でも同じようなことが言えそうですよね。
ただ一方で「教育」としての俯瞰的な視点で考えた場合、
こうしたコメントからは根深い問題も見えてきます。
「結局、『勉強するのは受験のため』という価値観が根付いている」ということです。
本来の学ぶ意味から考えたら、受験は学びの結果の一つに過ぎません。
受験が終わったから勉強しないでいいという理屈はないし、
受験後に学習意欲が下がるということは、「学びたい」と思って学んでいるわけではなく、
「(受験に)必要だから仕方なく」という深層心理が見え隠れします。
もちろん、学校の先生方が悪いと言いたいのではありません。
しかしそれでも、私たち塾を含む「教育」の提供者が、
そのスタンスでものごとを考えるべきではないと思います。
自戒を込めつつですが、私たちは何気なく
「受験まであと〇日だから、そこまで頑張ろう!(それが終わったら遊ぼう)」と
子どもたちに声をかけてしまうことってありますよね。
それは子どもたちを励ましたい一心であることはもちろん理解していますが、
やはり前提には「受験のための勉強」というバイアスがかかっているから
出てくる発言なのかもしれません。
「理想や理念は分かるが、社会構造が受験中心になっている以上仕方ない」
という意見も理解できます。
受験勉強を必死で頑張っている生徒さんに
「勉強は受験のためじゃない」なんて理想論をぶつけても
単なる空気を読めない発言にしかならないでしょうし、
そもそも「今」それを言わなくてもいいでしょとも思います。
そうした“現実”を分かっていてもなお、そうしたことを口に出さなくても、
せめて学びの理想は胸に抱いておきたいところです。
塾経営という点に限って考えても、仮に中学卒業後の継続通塾率が良くないのなら、
それは私たち(あるいは講師)自身が、受験を塾での勉強のゴールだと
無意識下で思っていることが原因かもしれません。
普段からそれを前提とした言動をしているから、
生徒さんたちも「そういうものだ」と刷り込まれてしまう面があるのではないでしょうか。
以前、こうした問題について知人が、こんな示唆に富んだコメントをしていました。
「受験勉強は“勉強”ではないと思っておけばよい。
真の勉強は大学に入って始まるのだから、本当に学びたい意思があるからこそ、
受験勉強はそのための通過儀礼だと割り切るぐらいでちょうど良いのかも」
なるほど~、特に塾関係者はそういう考え方も必要かもしれませんね。
実際に、信念を持って自らを「受験屋」である(=教育者ではないが、それでいい)と
考えておられる塾経営者の方も多いと思います。
中途半端に教育を語ってもっともらしいことを言いながら(そんなこと思ってもいないのに)、
実質は受験産業の中でビジネスをしているだけよりは、はるかに筋が通っています。
何が正しいとか正解を決めつけたり押し付けたりすることはできませんが、
「自分が塾人としてどうありたいのか」を明確に持っておくことは大事だと言えそうですね。
もう一つ気になった(気を付けたいと思った)のは、
「ICTの活用によって狙いたい効果・変化」という項目の結果です。
トップは「生徒の興味を喚起し、学習へのモチベーションを上げる」(58.6%)で、
以下「生徒一人ひとりが自分に合った方法や進度で学習できる」、
「先生方の負担軽減・校務の効率化」(共に53.9%)などと続きます。
成果としての「学習成績向上」ではなく、
学習に向かうプロセスや手法としての期待が大きいということですね。
よく見てみると、回答の選択肢の中にそもそも「学習成績向上」がないので
その影響もあるかもしれませんが、「その他」という答えが3.5%しかなかったことからも、
「ICT=学習成績向上の(直接的な)ツール」という認識はあまりないのでしょう。
これは学校の先生らしい答えだといえるかもしれません。
私たちは学習成績向上という成果を提供する事業を生業にしていますので、
ICTを含む教材選択においても「どれだけ学力向上するか」が軸になりがちです。
もちろんそれはそれで良いと思いますが、
学校の先生方のようにプロセスを意識した教材選択も大事な視点かもしれません。
いかがでしたでしょうか?
今回の提言はあくまで私個人の考えですし、
みなさんにも、それぞれの考え方があると思います。
しかし、何のために塾を始めたのかという原始的な衝動は、
ときどきでもいいので、何度も思い出すようにしたいですね。
【今回のまとめ】
・大人も子どもも「勉強は受験のため」という刷り込みがあるかも
・何のために塾をやっているのか、理念を忘れずに