先日報じられた調査によると、LGBTQなど性的マイノリティーの中高生の9割が、
過去1年以内に学校で「困難やハラスメントを経験した」と回答したそうです。
<LGBTQなど性的マイノリティーの中高生9割が“学校で困難経験”>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250608/k10014828831000.html
この中で特に注目したいのは、具体的にどのような困難・ハラスメントがあったかについて
「LGBTQではないと決めつける言動」という回答が多かったことです。
つまり、その子を含む周りの人たちが性的マイノリティーである可能性を
悪意なく無意識に排除しているということであり、
そうした「前提の押しつけ」がすでにストレスの原因になっているわけですね。
これは私たちも大いに意識しなくてはいけません。
みなさんはいかがでしょうか?
「うちは小さい塾だから関係ない」「LGBTQの生徒さんなんて来ていない」、
根拠もなくそんなふうに思ってはいませんか?
「その可能性」を意識したことが、そもそもあまりないという方も多いかもしれません。
しかし、その感覚こそが当事者を傷つけるものであり、
塾としても大きなリスクになり得ることを自覚すべきだと思います。
性的マイノリティーの若者の多くは、
自分の属性を誰にでも明かしているわけではありません。
電通総研などの調査によると、人口の5~8%がLGBTQ+であると言われます。
100人の生徒さんがいれば5~8人はその可能性があるということです。
また、当事者の約8割がカミングアウトしていないというデータもあります。
つまり、「うちには性的マイノリティーの生徒はいない」と思っている塾さんでも、
実際には在籍している可能性が高いのです。
そして、カミングアウトされていないということは、別の見方をすれば
「この塾、この先生なら話してもいい」と思えるほどの
関係が構築されていないことの裏返しとも言えます。
生徒さんが相談してこないのは、問題がないからではなく、
「話せない空気があるからかもしれない」という視点を持てるかどうかが、
塾経営において非常に重要だと言えるでしょう。
ハラスメントというと、悪意のある発言やあからさまな差別を想像しがちですが、
調査で報告されたハラスメントの多くは、必ずしも悪気があってのことではなく、
「あなたの性別はこうであるべき」という無意識の決めつけから生まれています。
例えば雑談のつもりで「男の子なんだから元気出して!」と声をかけたとします。
これらは一見フレンドリーで明るい言葉ですが、
相手を「異性愛者」「自認する性別と肉体的性別が一致している人間」と仮定している点で、
当事者にとっては大きな心理的負担になります。
心理学には、「マイクロアグレッション」という概念があります。
悪意はなくとも、無意識の偏見や差別が会話の中ににじみ出てしまう現象を指す言葉です。
特に教育現場では、励ましや親しみを込めたつもりの言葉が、
逆に生徒さんの自己否定感を強めてしまう例が多く報告されています。
雑談の中に無意識の「構造的な排除」が潜んでいるという認識が、
私たち塾経営者にも講師にも求められていると言えるでしょう。
では、どうすればよいのでしょうか?
答えの一つは、「性の前提を置かない会話」を意識的に設計することです。
例えば、そもそもその話題に言及することが適切かどうかは別として、
「彼氏・彼女いるの?」と聞くのではなく、
「誰か大切な人はいる?」といった中立的な表現に変えることができると思います。
「男の子なんだから(女の子なんだから)○○しよう」ではなく、
「君ならできる」と個人の特性に焦点を当てることも可能でしょう。
このように、性別や恋愛対象を決めつけずに話す工夫だけでも、
生徒さんが安心感を持てる環境づくりに大きく貢献します。
さらに、LGBTQについて直接話題にしないまでも、
講師同士の会話や塾内の掲示物、教材などに多様性を尊重する姿勢がにじみ出ていれば、
生徒さんはそれを敏感に感じ取ります。
例えば、「○○さんは女子なのに理系科目が得意だね!」などと言わないとか。
生徒さんの名前を壁などに掲示する際、
「男子は青枠」「女子は赤枠」といったデザインで分けないとか。
塾から配るグッズやノベルティ―の種類を男女で分けないとか。
英語や国語の読解問題で、主人公が性的マイノリティーであるとか。
ちょっとした意識やアイデアで、いくらでもできることはあるはずです。
性の多様性に配慮することは、特別なことではありません。
むしろ、それはこれからの塾にとって
「信頼される教育サービス」としての最低条件に近づいていくと思います。
そして何より重要なのは、「何かを言われた」ことではなく、
「何も言われなかったこと」に敏感になる感度です。
「この生徒さん、悩んでいないのかな?」と考えるのではなく、
「悩んでいるけれど話せていないのかも」と考える視点を持ちましょう。
このような視点を持つことが、生徒さんとの信頼関係だけでなく、
保護者さんからの評価、にもつながるはずです。
また、ここまで「生徒さんが性的マイノリティーである可能性」という前提で話をしていますが、
社員さんや学生講師さんが当事者である可能性も忘れてはいけません。
とにかく、当事者が「いるかも」ではなく
「いる」という前提で何ごとも考えるくらいでちょうど良いと思います。
個別指導塾の最大の強みは、「一人ひとりに向き合える」ことです。
だからこそ、性のあり方や個人の背景に配慮し、
画一的なルールや制度に縛られない柔軟性を生かして、
生徒さんが「ここなら安心して学べる」と思える場を作ることができると思います。
【今回のまとめ】
・性的マイノリティーは「絶対に近くにいる」と思うくらいでちょうどよい
・無意識下の「マイクロアグレッション」に注意