【Vol.912(2025.06.25)】文系人材が余る!? だからと言って文系は不要なのか

文学部などに代表される、人文学系の学問の不要論が叫ばれて久しいです。
「それを学んで何か意味があるの? 役立つの?」という議論ですね。

そんな矢先、こんなニュースを目にしました。

文系人材が「余る」可能性について言及した内容です。

<文系大卒」、2040年には30万人余剰 経産省試算>
https://www.kyoiku-press.com/post-296848/

しかし、塾においてこの推計を
「文系人材は30万人余るらしいから、理系にしたほうが低リスク」などという
短絡的な進路サポートの判断材料として捉えるべきではないと思います。

私はこのニュースについて
「知識そのものより、知識を活かし変化させる力」の価値を再提示していると感じました。

学習指導要領でも指摘されている、「知識・技能」をいかに活用できるか、という視点です。
塾経営者としても、ここに注目すべきではないかと思います。

「数学は嫌いだけど国語は得意」「理系科目には興味がないけど英語は好き」
こうした生徒さんは、従来「文系向き」と見なされがちですよね。

しかし実は、社会の実務ではこの枠組みを超えたタスク処理が必要です。

「数学的思考×伝える力」「デザインセンス×論理構成力」などの
異種スキルの掛け合わせが求められます。

「自分は文系だから、理系だから」というフィルターを、生徒さんが自分で自分にかけることは、
(特に中高生において)可能性を閉ざしてしまう行為とも言えるものです。

それもあって、近年日本でも、文理融合を進める教科横断教育が注目されており、
アメリカの大学では、そうした教育を経験してきた卒業生は
コミュニケーション力や批判的思考力、チームワーク力が強いと報告されています 。

AI時代の現代および未来なら
「AIスキルも持ちながら、倫理・文章表現もできる人材」が重宝されるかもしれませんね。

では、塾でどんな取り組みができるでしょうか。

1.教科横断プロジェクト型授業
例えば「あるトピック(身近な社会問題や環境課題)」をテーマに、
理科・社会・国語・英語など複数教科で取材・分析・発信などを行います。

これは学校の事例ですが、実際に、田園調布学園中等部では
日本古来の「家紋」を数学の作図法で再現し、デザインの中の幾何学的構造を学ぶ授業や、
美術作品の評論文を読解て、評価根拠を論理で考える授業などが行われているそうです。

2.プロセス・思考を言語化させる練習
数学の解答プロセスを国語で「どう説明するか」、
英語で「他文化の人にどう伝えるか」に書き換えさせる演習です。
これにより、「計算できる」から「伝えられる」までスキルを拡張できます。

ただ、塾という事業の特質上、見える形での「結果」は求められますよね。

テストの点数であれば数字で示しやすいですが、
こうした教育的取り組みの価値を、いかに可視化すればよいでしょうか。

例えば、以下のような方法が考えられます。

●プレゼン大会
チームで学びを融合して発表し、保護者・外部審査を招く。
●学習のポートフォリオ
作品、発表、リフレクション(日誌)を冊子化し、進路面談で提示する。
●企業・業界人との対話会
例えばIT×社会課題を扱うキャリアトークで、学びの意味を再構成する機会を設ける。

「将来の進路に直結する学び」であることが、
体験と説明を通じて共感を伴って伝わるのではないでしょうか。

研究でも、「スキルの経済価値は他スキルとの組み合わせに依存する」と示されています。

特にAIスキルは他のスキルとの相補性が高いようで、データによると、
そうしたスキルを持つ人たちは賃金も平均21%増となっていたのだそう。

もちろん「たくさん稼げる人間を育てること」が塾教育の主題ではありませんが、
塾にもこのような「教育の再編集力」自体は必要だと思います。

それが一つのブランド戦略にもなるはずだからです。

また、こうした取り組み自体は、規模の大小や詳細の差こそあれ
すでに類似のアプローチを実施されている塾さんもあるでしょう。

重要なのは、そこに「教科横断的な学びで、再編集された教育に取り組む」という
明確な趣旨をもって臨むことだと思います。

学びの融合イベントを地域向けにオープンにし、保護者さんや教育関係者に見せたり、
講師の研修で「異分野を繋ぐ問いかけ力」など研修し、横断的学びを専門性にしたり、
単発ではなく、年間テーマを決め、継続学習として体現したりなど、
やりようはいくらでもあるはずです。

「文系余剰・理系不足」の試算は、進路選択の指針ではなく「学びのあり方を問う問い」です。

塾として「進学先」を売り物にするだけでなく、
「学び方そのものをデザインできる力を育てる場」としてブランドを築くチャンスとも言えます。

そもそも、学問を実学的な有益性のみで判断して、
実社会で役に立つか立たないかという二項対立で論じるのは
教育が持つ可能性の否定でもあります。

もう少し、私たち教育の提供者が、
リベラルアーツ的発想を持つことが大事ではないでしょうか。

【今回のまとめ】
・文系人材の余剰を、進路選択の指針として捉えない
・教科横断的な取り組みを、塾でも

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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