【Vol.924(2025.08.01)】記述式問題を、白紙で提出する子どもたち

2025年に実施された全国学力テストの結果が報じられ、
記述式問題の平均正答率の低さが注目されました。

<全国学力テストの結果公表 記述式問題で平均正答率低い傾向>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250714/k10014863071000.html

中でも私が気になったのは、小学校算数の記述問題における
「正答率23.3%、無回答率15.6%」というデータです。

約6人に1人が回答を「書くことすらしなかった(できなかった)」という現実は、
ちょっと衝撃ではないですか!?

単なる学力問題を超えて、深い構造的課題があるように思えます。

このような報道を受けると、塾としては
「やはり塾でも作文の練習をさせないと」「もっと記述式演習を増やそう」といった
方針を掲げてしまいがちです。

しかし、記述問題に対応できない背景には、
作文スキル以前の「論理を言語化する力」の不足が隠れています。

ここに注目してみると、塾のブランディング(強み)構成の上でも
大きなヒントになるかもしれません。

記述式問題と聞くと、すぐに「国語の要約」「感想文」「作文」といったイメージが浮かびます。

確かに、中学国語の問題では、島崎藤村の小説を題材にした記述式問題で、
正答率17.4%、無回答率27.7%となっていました。

しかし、今回の全国学力テストでは、
小学校算数の分数に関する記述問題の誤答・無回答も目立っています。

毎日新聞の記事によると、文科省も
「文章の構成などについて根拠を明確にして考えること」や
「考えが伝わるように根拠を明確にして書くこと」に課題があると指摘しているそうです。

つまり、単なる表現力の問題だけではなく、論理的に考えたことを、
順を追って他者に伝える力に課題があるということでしょう。

こうした力は作文とは異なり、主観的な表現や表現力の豊かさではなく、
因果関係の把握・論理構造の明示・情報の整理能力といった
ロジカルシンキングの能力が問われています。

例えば「5個のリンゴを3人で分けるとき、なぜ1人分は5÷3個になるのか」を
説明させるような問題があったとしましょう。

実際に、あなたもちょっと考えてみてください。

これは、計算力よりも数学的思考を言語で整理する力が鍵となりますよね。
こうしたスキルは、国語の授業や読書経験だけでは十分に育まれません。

では、記述式問題を白紙で提出する生徒さんは、なぜ「書かない」のでしょうか。
その背景には主に2つの要因が考えられます。

(1)論理の構造が理解できていない

答えの理由を説明しようとしても、自分がどのように考えたのかを
順序立てて再構築できない可能性があります。

「なんとなくこうだと思ったけど、言葉にできない」「合っているかどうか不安で書けない」
といった認知のあいまいさが、手を止めさせるのでしょう。

(2)書く経験・訓練が圧倒的に不足している

「どう書き始めればいいかわからない」と感じる生徒さんの多くは、
書くためのフレームや型を知らないケースが考えられます。

つまり、ロジックは断片的に理解できていても、
それを文章に落とし込む技術が習得できていない状態です。

こうした生徒さんに、いきなり「自由に説明してごらん」と投げかけてもほぼ意味がありません。

必要なのは、書き始めの型を与える、順番に整理するテンプレートを用意するなど、
言語化の橋渡しをすることではないでしょうか。

実はこの「論理の言語化」は、国語よりも数学・理科が本領を発揮できる領域でもあります。

感覚的な作文や情緒的な表現ではなく、「事実→理由→結論」という論理構造は、
まさに数学の思考様式そのものだからです。

塾でも、そうしたアプローチをしてみてはいかがでしょうか。
例えば、次のようなトレーニングが考えられます。

・計算過程を言葉で説明させる(「どうしてこの式を使ったの?」)
・誤答例を見せて、「なぜその考え方が間違っているか」を説明させる
・同じ問題に複数の解法がある場合、「なぜこの方法を選んだか」を文章で比較する

このような訓練を通じて、生徒さんは「論理を言語にする技術」を獲得します。

これは単なる学力向上にとどまらず、AI時代においても代替されにくい
「考える力」「伝える力」を育んでいくはずです。

そしてここに、中小規模の個別指導塾が取れる戦略も眠っていると感じます。

作文や感想文を中心とした国語塾ではなく、
「思考を言語化するロジカルスキル」をコンテンツ(強み)の一つとして打ち出すことです。

例えば、こんなことができるかもしれません。

・「算数・数学で育てる言語力講座」
・「理科の実験レポート添削トレーニング」
・「誤答説明トレーニングによるメタ認知強化コース」

白紙回答をする子どもたちを「やる気がない」と片付けてしまうのは簡単です。
しかし、その多くは「考えてはいるけれど、どう書けばいいか分からない」だけなのです。

つまり、「書けない」のではなく、「書き始める助け」が足りないだけとも言えます。

そこに寄り添い、ロジックのフレームを与え、言語化の筋道を示すことができれば、
きっとそれは塾としての強みになるはず。

「書けるようにする塾」というブランドもアリかもしれませんね。

【今回のまとめ】
・記述式問題の正答率が低くなっている。白紙回答も目立った
・なぜ「書けない」のかに着目したサービス提供を考える

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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