(公財)日本財団が定期的に実施している「18歳意識調査」。
今回は「戦後80年」をテーマに行われ、
若者たちが太平洋戦争をどう学んでいるのか、どう捉えているのか、
データが明らかになりました。
<日本財団18歳意識調査結果 第71回テーマ「戦後80年」>プレスリリース
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2025/20250725-114026.html
<調査結果>
https://www.nippon-foundation.or.jp/wp-content/uploads/2025/07/new_pr_20250725_04.pdf
この中で私が特に気になったのが、10代の16.0%が広島に原爆が落とされた日を知らず、
55.5%が戦争体験者の話を直接聞いたことがないという事実です。
戦後80年という節目の年でさえこのような結果であることに、
衝撃を受けた方も多いかもしれません。
このデータは一見、「若者の関心のなさ」や「歴史教育の弱体化」を
示しているようにも思えます。
しかし塾経営者として着目すべきは、こうした知識の欠如の背景にある、
社会的構造の変化や家庭内の語りが失われていることではないでしょうか。
「語り継がれなかった世代」が今、私たちの塾に通っているということです。
この事実をどう捉えるかによって、塾の提供価値も、マーケティング戦略も、
大きく変わってくるのではないかと思います。
現在の子どもたちは、インターネットやSNSを通じて、
過去のできごとや社会問題に触れる機会が増えました。
しかし、それらはあくまで「情報」であり、「語られた記憶」とは根本的に異なるものです。
語られるという行為は、単に事実を伝えること以上の意味を持ちます。
語る人の感情や価値観、当時の空気感など、言葉の背後にある文脈が共有されることで、
聞き手はそのできごとを「自分の一部」として受け取ることができます。
例えば「原爆で20万人が亡くなった」というのは「情報」ですが、
その20万人のうちの一人が自分の親きょうだいであるという人から直接話を聞くのとは
まったく質が異なることは分かっていただけるでしょう。
このような「文脈のある記憶」が子どもたちに届いていないとすれば、
それは単なる知識の不足ではなく、つながりの喪失です。
つまり今の10代は、「過去のできごとに触れていない」のではなく、
「つなげてもらえていない」世代だと考えることができます。
これと同じことが、塾で提供する学習サービス(授業など)にも言えるのではないでしょうか。
例えば、数学の公式や英文法を教える際も、それがどのような背景や目的で生まれ、
なぜ今それを学ぶ意味があるのかを示す必要があります。
知識と現実、そして感情をつなげる「意味の橋渡し」です。
マーケティングの観点から見ても、この「意味設計」は重要でしょう。
「成績アップ」「志望校合格」といった成果が塾選びの決定要因になりがちですが、
現代の保護者さんはそれに加えて、
「子どもが社会とどうつながっていけるか」「自立した人間に育っていけるか」といった、
より長期的な育成視点を求める人が多いように感じます。
塾が単なる学力向上の場ではなく、社会や他者とつながる力を育てる場であるかどうかが
ひとつの信頼や選択に直結する時代になっているのです。
この時期、勉強合宿を実施される塾さんも多いと思いますが、
勉強するだけなら教室で十分なはずなのに、あえてそうして教室を飛び出し、
集団で宿泊しながら学ぶ体験を積むのは、そうした教育的意図があるからですよね?
今回の調査に示された「知らない」という事実は、子ども自身の責任ではありません。
それは、体験を語る人がいなくなったこと、家庭や学校の中で語られる機会が減ったこと、
つまり大人側が「語らなかった」責任でもあります。
例えば大学受験の知識ですら、「誰から、どのように語られるか」によって、
その意味合いや重みは変わるはず。
教師や講師が単に「教える人」ではなく、
「語り、つなぐ人」として立つことが求められていると思います。
塾における講師の役割も、
「知識の提供者」から「経験と意味の翻訳者」へとシフトしていくべきです。
このシフトを意識することで、保護者さんや生徒との関係性もより深くなり、
塾そのもののブランド価値も上がっていくのではないでしょうか。
今後の塾マーケティング戦略においては、
「どんな学力を身につけられるか」も大事ですが、
「どんな世界観と接続できるか」を意識してはいかがでしょう。
塾内で「語り手を育てる」活動――自分の経験を振り返って短いスピーチにまとめるワーク、
他者にインタビューして言語化するトレーニングを導入すれば、
記憶や経験を「自分の言葉」に変換する力が養われます。
これは面接対策や記述対策としても機能するはずです。
さらに、こうした活動を塾ブログやSNSで発信すれば、
知識を教える塾”ではなく「言葉とつながる塾」というブランドを構築することも可能です。
実際SNSでは、記憶や価値観に触れる投稿に強い共感が集まる傾向があります。
語られなかった世代が通う塾は、逆に言えば、語ることの価値を再発見できる場。
社会が忘れかけている「つながりの感覚」を再び取り戻すこと。
「知らない」を責めるのではなく、「知らされなかったこと」の構造を見抜き、
そこに意味と物語を与える。
そのような視点を持った塾は、子どもたちの未来を支えるだけでなく、
地域や社会との信頼をも築く存在になっていくと思います。
【今回のまとめ】
・「知らない」ことを子どもの責にしない
・情報を伝えるだけでなく、物語を語り継ぐ視点を