【Vol.928(2025.08.15)】ルールは作るだけでは意味がない?

まえがきで「塾講師を臨時教員に」というニュースに触れましたが、
塾も学校に学べる部分はたくさんあると思います。

実際に塾講師が教壇に立てるようになったら、現場でたくさんのことを吸収したいですね。

そんな中で先日、名古屋市教育委員会が教員による盗撮などの性的犯罪防止を目的に、
教員が私物スマートフォンなどで児童生徒を撮影することを禁止するルールを通知しました。

<教員の私用スマホで児童・生徒の撮影禁止 名古屋市教委が通知>
https://www.asahi.com/articles/AST7Q4TWLT7QOIPE00JM.html

このニュースからも、個別指導塾における安全管理に大きなヒントが得られます。

それは、安全のルールや手順を可視化し、保護者さんや生徒さん、
スタッフがいつでも確認できる形にしておくことです。

これまで「常識」と思われていたことでも、
明文化し、現場に浸透させることで初めて徹底されるという好例だと思います。

教育心理学の研究では、ルールや規範は
「認知されて初めて遵守される」ことが示されています。

逆に、ルールや規範を視覚化すると、遵守率は平均で15〜25%向上するのだそうです。

つまり、どれほど厳密なルールを作っても、
関係者がそれを意識できる環境を作らなければ形骸化するということですね。

塾においても「スマホ撮影禁止」「授業中の私語禁止」などのルールを
口頭や契約書で伝えるケースは多いでしょう。

しかし、人間の記憶は時間とともに薄れます。
ルールは存在していても、実際の行動を縛る力が弱まっていくのです。

その前提で、製造業などで用いられる「可視化」の概念は、
教育現場でも応用可能だと感じます。

具体的には、

・教室入口に「塾内安全ルール」ポスターを掲示
・講師控室に「授業中の禁止行為チェックリスト」を常設
・保護者さん向けに年1回「安全マニュアル改訂版」を送付

といった形で、ルールを「目に入る場所」に置き続けることくらいなら難しくありませんよね。

可視化のもう一つの柱は、「起こりかけた事故」=ヒヤリハット事例の共有です。

塾経営において、重大事故は1度でも起きれば信頼を大きく損ねますが、
実際には大事故の前に必ず小さな予兆があるものです。

例えば

・生徒が授業後に講師のスマホで動画を見ようとした
・講師が(個人が特定できるような)授業写真をSNSに誤って投稿しかけた

といった事例を、スタッフミーティングやLINEグループなどで定期的に共有し、
対策をマニュアルに反映します。

航空業界や医療現場では、この仕組みが
事故率低下に大きく寄与していることが統計的に確認されています。

安全マニュアルの可視化は、保護者さんへの信頼発信ツールにもなります。

塾の入口や公式サイトに「安全ポリシー」を明記しておくと、
初めて訪れる保護者さんに安心感を与えられるでしょう。

これは学力向上だけでは得られない、ブランド力の源泉です。

大手学習塾さんでは、ルール改訂だけでも時間がかかる場合があります。

一方、私たち中小規模の個別指導塾は、
経営者が直接判断して即日ルールを変更し、可視化が可能です。

例えば、ニュースなどで新たなSNSトラブルが報じられた際、
その日のうちに塾の「SNS利用ガイドライン」に加筆し、
保護者さんへの連絡フォームで配信することもできるでしょう。

こうした対応は、「この塾は時代の変化に敏感で、子どもを守る力がある」という
信頼を醸成してくれるはずです。

可視化するためのポスターや冊子作成は、
時間的にも金銭的にもコストになるのは事実です。

しかし、リスク管理の不備による損失は、その何十倍にも及ぶことがあります。

SNS時代では、一度の不祥事が瞬く間に拡散し、
経営存続に関わる打撃を与えることも珍しくありません。

安全マニュアルの可視化は、そのような損失を防ぐ保険であり、
さらに差別化要素として売上に貢献する「攻めの投資」と言えます。

名古屋市の「私物スマホ撮影禁止」のルール化は、
教育現場における安全対策の重要性を改めて示してくれています。

個別指導塾においても、ルールは作るだけでは不十分です。

可視化して日常的に意識させ、改善を繰り返すことで、
初めて生徒さんや保護者さんの信頼を獲得できます。

安全マニュアルを、単なるルールではなく「経営の武器」に変える、
そんなリスク管理の姿勢を持ちたいものです。

【今回のまとめ】
・ルールは作っただけでは機能しない
・明文化して可視化することで、攻めのリスク管理を

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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