先日、愛知県豊明市で「市民のスマホ利用を1日2時間以内に抑える」という
条例案が提出され、大きな議論を呼びました。
<愛知 豊明 “スマホなど使用1日2時間以内目安” 条例案を提出>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250825/k10014902941000.html
以前に香川県で、18歳未満の子どもを対象に
スマホ規制条例が出されたときも話題となりましたが、
今回の豊明市は全市民を対象としており、ずいぶん踏み込んだ取り組みですよね。
香川県、豊明市の事例は共に罰則はなく、あくまで努力目標としての提示にすぎませんが、
「やりすぎではないか」という声と「必要な問題提起だ」という賛成意見が交錯しています。
こうしたルール設計のあり方は、学習塾の経営にとっても学びが多いテーマです。
しかし、罰則を伴うこともある厳しい強制型ルールもあれば、
上述の条例のような推奨型ルールもあるでしょう。
そこで今回は、この両者を比較する視点から、
塾内で導入するルールの役割を整理してみようと思います。
まず、強制型ルールの特徴に挙げられるのは「即効性」ではないでしょうか。
例えば「授業中にスマホを触ったら退室」という規制を設ければ、
生徒さんはその場で行動を改めます。
これは教育心理学でいう「外的動機づけ」にあたり、
罰を避けたいという気持ちが行動を制御するからです。
ただし、この仕組みには限界もあります。
外的動機に依存しすぎると、「監視がある間だけマジメにする」という状態に陥りやすく、
長期的な学習習慣の定着にはつながりにくいのもまた事実です。
行動経済学の研究でも、強制的な罰則は人の自律性を奪い、
長期的なモチベーション低下につながることが指摘されています。
一方で、豊明市の条例のような「強制力のない推奨型ルール」に
即効性は期待できませんが、長期的な習慣形成には効果を発揮する側面があります。
WHOが提唱する「1日60分の有酸素性身体活動推奨」や、
日本小児科学会の「就寝前1時間はデジタル機器を避けるべき」というガイドラインなどは、
拘束力がなくても一つの基準として、子どもや家庭の生活習慣に影響を与えていますよね。
教育現場でも、推奨型ルールは「内的動機づけ」を促す役割を果たします。
「授業中にスマホを机に置かない方が集中できる」というメッセージを繰り返し伝えれば、
生徒さんは「自分のためにそうするのが自然」と感じやすくなるでしょう。
必ずしもすぐ素直に従ってくれるとは限りませんが、
このプロセスこそが、自主的な学習態度を根づかせる基盤にもなります。
ここで重要なのは、強制型と推奨型をどう組み合わせるかという視点です。
今すぐ行動を正すためには強制型が有効ですが、
それだけでは塾を出た瞬間に崩れてしまうかもしれません。
逆に推奨型だけでは、すぐには行動を変えられず、学習環境が乱れることもあります。
したがって、経営戦略としては「強制型=短期効果」「推奨型=長期効果」という
時間軸での分担を明確にすることになるでしょう。
例えば、授業中にスマホをいじる行為には罰則を設け、即座に秩序を回復します。
一方で、家庭学習におけるスマホ利用については
「1日2時間以内が理想」という推奨ルールを掲げ、
徐々に生活習慣に浸透させていくイメージですかね。
自己決定理論では、人が持続的に行動するには
「自律性」「有能感」「関係性」の三要素が重要だとされています。
強制型の規則は自律性を損なうリスクがありますが、
一定の場面では「秩序を保つための外的動機」として有効です。
一方で推奨型規則は、生徒さんに「自分で選んだ」という感覚を与えやすく、
内的動機を支える役割を果たします。
つまり、塾経営者に求められるのは
「罰則で最低限の秩序を守りつつ、推奨で自主性を育てる」という設計ではないでしょうか。
どちらか一方に偏らず、両者をバランスよく使い分けることが大事だと思います。
実際の塾運営では、例えば次のような使い分けが考えられそうです。
(1)宿題提出
強制型:期限までに宿題を提出しなかった場合は、翌日までに自習室で必ず終わらせる。
推奨型:提出期限の3日前までに半分を終えておくと、計画的に進めやすい。
(2)授業への遅刻
強制型:正当な理由なく授業開始時間から5分以上遅れた場合は、その分の振替は不可。
推奨型:10分前には着席して復習に充てると、授業の吸収率が高まる。
(3)自習室の利用
強制型:私語が続いた場合は利用停止。
推奨型:静かな環境で集中して勉強する効果を根拠と共に示し、適切な利用を促す。
このように領域を分けることで、
生徒さんや保護者さんからの納得感も高まりやすくなるのでなないでしょうか
また、推奨型は「教育方針の発信」として保護者さんへのメッセージにもなります。
塾として何を大切にしているのかを示せますしね。
さらに、強制と推奨を併用する姿勢を示すことで、
「ただ厳しいだけ」でも「ただ甘いだけ」でもない、
バランス感覚のある塾としての信頼を得やすくなるでしょう。
強制と推奨、短期と長期、外的動機と内的動機を意識的に使い分けることで、
学習環境の改善だけでなく、保護者さんからの信頼獲得にもつながるはずです。
【今回のまとめ】
・強制型と推奨型のルールをバランスよく併用する
・どちらも一長一短なので、偏らないルール運用を