子どもを巻き込んだ心中(で被害者となる子ども)の事例は、
小学生の割合が多いというニュースを目にしました。
<心中事例は小学生の割合が大きい 「心中」の呼称見直し検討も>※有料記事
https://www.kyobun.co.jp/article/2025091102
児童虐待や、虐待による死亡事例の調査結果を報じたものです。
本当にいたましい内容ですが、それに加えて記事中で私が「ハッ」としたのは
「心中」という表現を見直したほうがよいのではないかという部分です。
記事によると、本来、心中とは「同じ思いで自殺を選ぶ」というニュアンスですが、
実態として「保護者による心中は、子どもが死を強制されているから」で、
外国では「子殺し自殺」「子供虐待後の自殺」などという表現をするそうです。
まったくその通りだと思います。
このように、何気なく使っていても、
よくよく考えてみたら不適切だと思われる言葉ってたくさんあります。
塾業界内の用語でもそうではないでしょうか。
そこで今回は「塾内での言葉の表現の見直し」を一緒に考えてみませんか?
まず、「心中」という表現もそうですが、こうした例は、
何気なく使っている言葉が、実態をゆがめたり、誰かを傷つけたりすることを示しています。
例えば塾内ではどんなものがあり、どんなふうに言い換えるのが適切でしょう。
1.「落ちこぼれ」
「落ちこぼれ」という言葉は、昭和期の教育現場で頻繁に使われました。
しかし、心理学上の研究からも、こうしたラベリング(レッテル貼り)は、
自己効力感を著しく下げ、学習意欲の低下につながることが分かっています。
今はあまり使う人も少ないかもしれませんが、現代の価値観で見れば、
普通に考えて失礼極まりない言い方です。
逆に言えば、時代と共にそれだけ表現や価値観も変わっているということで、
塾内で漫然と慣例的に使っていた言葉でも、
時代に合わなくなっているものがあるかもしれないという証左でもあると思います。
代替表現としては「学習につまずきを抱える生徒」「追加のサポートが必要な生徒」
といった表現になるでしょうか。
それでも、生徒さん本人や保護者さんを目の前にして言う言葉ではないと思います。
2.「できる子/できない子」
これも「落ちこぼれ」と同じラベリングです。
保護者さんが使っているケースも散見されますね。
「できる・できない」という表現は、単なる一つの評価基準に過ぎない学力を、
その子の人格全体に拡張してしまう危険があります。
つまり「できない子」と言われると、自分は人としてダメなのであり、
一生できないと信じ込み、努力を放棄してしまう可能性があるのです。
代替表現は「○○が得意な子」「これから伸びる子」あたりですかね。
この言い換えだけで、生徒の自尊感情を守り、挑戦意欲を支えることができます。
3.「滑り止め」
「滑り止め」という言葉は、日本独特の受験文化を反映したものです。
本当は行く価値はない(行きたくない)けど、ここなら行ける(行くしかない)、
というニュアンスですよね。
しかし、その「滑り止め」と言われた学校の先生方や
生徒さん、保護者さんが聞けばどんな気持ちになるでしょう。
塾業界内では「安心校」といった言い換えがよく見られますが、
普通に「第1志望」「第2志望」「第3志望」でよいような気もします。可
4.「補習」
「補習」という言葉には、
あなたは「遅れているから追加で受ける」「足りないから補う」という印象があります。
そのため生徒さんや保護者さんによっては、
恥ずかしさや屈辱、劣等感の原因として受け止める子もいるでしょう。
最近は「フォローアップ授業」「確認授業」といった呼び方も見られるようになりました。
5.「内申対策」
「内申“対策”」という言い方は、あたかも点数の操作や小手先の工夫で
成績を上げる印象を与えてしまいます。
本来、内申点は日々の提出物や授業態度、活動への積極性の総合評価であって
「対策」するものではありません。
「学校生活全般を支える取り組み」「日常の積み重ねをサポート」と表現すれば、
教育本来の姿に近づけることができます。
6.生徒を「集める」「入塾させる」
これは、当メルマガでも再三にわたってお伝えしている言葉ですね。
塾経営者の視点として、ビジネス的な表現としては分かるのですが、
あたかもビジネス的意図を持ってテクニックで誘導した、という印象がぬぐい切れません。
生徒さんが「集まった」「入塾した」のであって、
「させた」などという言い方は傲慢さを感じさせ、あまり気分のよいものではありません。
同じく「合格させた」というのも、個人的にはどうかと思います。
合格は塾の手柄ではなく、生徒さん自身が勝ち取った努力の成果だからです。
私たちはそのサポートをしたにすぎません。
8.「生徒・保護者」という呼び捨て
チラシなどで、便宜上「生徒・保護者に伝える」といった表現を使うことはあると思いますが、
コミュニケーションの場においては不適切ですよね。
たとえばお店に行って、そこの店員さんが「客が~」と言っていたらどう感じますか?
短気な人なら「“お客様”だろ、このやろう!」とキレ散らかすかもしれません(笑)。
「生徒さん」「保護者さん」「保護者の方」と丁寧に言い換えるだけで、
受け取る印象は大きく変わります。
厳しい言い方になりますが、
無意識下で、相手を対等な存在として扱っていないからこうなるのかもしれません。
意識して、性根から改めたいですね。
いかがでしょうか?
正直、私も記事としてまとめながら「自分も思わず使っているなあ……」と
反省する部分がたくさんありました。
特に大事なのは、こうした表現が「悪気なく」使われているという点です。
しかし、それこそまさに潜在意識の表れであり、
そこに経営者や講師の価値観がにじみ出ます。
つまり、日常的に使う言葉を見直すことは、
塾の理念や姿勢を再確認する作業でもあるのです。
近年は、行き過ぎたポリティカルコレクトネスが問題となることがありますが、
もちろんそこまでやる必要はないと思います。
ただ、小さな言葉の積み重ねが、塾の文化と信頼を形づくるのも事実です。
ぜひ一度、塾内での言葉づかいを棚卸ししてみてください。
【今回のまとめ】
・何気なく使っている言葉でも、不適切なものがある
・塾内で行きかう言葉の表現を棚卸しし、見直してみよう