【Vol.954(2025.11.12)】「開かれた学び」――オープンイノベーションで新たな教育モデルを

ウサギやニワトリ、金魚……私たちが子どもだったころ、
学校で動物を飼育することは定番でしたよね。

しかし近年、管理負担の問題などから学校での動物飼育が減っているそうです。

そこで川崎市の医師会が、地域の小学校に
飼育動物を「貸し出す」取り組みを始めたというニュースがありました。

<川崎市獣医師会 小学校に動物貸し出しへ 市内4校で今秋試行>
https://www.townnews.co.jp/0201/2025/09/26/803712.html

学校が動物を主体的に所有するのではなく、医師会から「借りる」形にすることで、
動物飼育教育の良さを残したまま、学校の負担軽減ができるとして注目を集めています。

これは一見、教育の情操面に寄与する温かな試みのように思えますが、
経営や教育の仕組みの観点から見ても、非常に本質的な意味を持っています。

「自前主義」を脱して、外部の資源を取り入れることで教育の質を高めるという、
いわば「オープンイノベーション(Open Innovation)」の思想です。

オープンイノベーションとは、企業が自社の枠を超えて外部の知や技術を取り入れ、
新たな価値を創出する考え方です。

逆に、自社のリソースだけで何とかしようとすることをクローズドイノベーションと言います。

この考えは、教育業界にもそのまま当てはまるのではないでしょうか。

多くの個別指導塾は、自塾内で完結する仕組みを前提としています。
授業、教材、講師育成、情報発信のすべてを「内製化」しようとする傾向が強いのです。

しかし、学びの多様化が進む現代において、
塾という一組織だけがすべてを抱えるのは意外に負担が大きいものです。

むしろ、外部との協働を通じて新しい教育価値を共創することができれば、
これからの塾経営に新たな魅力をもたらす鍵になります。

例えば、理科実験が得意な地域のNPOや企業と連携して授業を共同開催する、
美術教室や音楽教室とタイアップして、アート×学びのワークショップを開く……

こうした「異分野融合型」の教育設計は、
学校や行政が追いついていない部分を、塾が柔軟に担うことができます。

まさに、医師会が動物を貸し出したように、
塾もまた地域に「知と人のリソース」を提供し合う存在になれるのです。

また、オープンイノベーションの真価は、「外部の知を取り入れる」ことだけではなく、
「自分たちの知を外に出す」ことにもあります。

塾講師は受験指導や学習支援の専門家であると同時に、
子どもの動機づけやコミュニケーションのプロフェッショナルでもありますよね?

この人的リソースを地域に開放することは、大きな社会的意義を持つはずです。

塾経営者や講師が地域の公民館などで学習相談会を開いたり、
地元中学校で「学び方講座」を実施したりできるかもしれません。

あるいは、地元企業の新入社員研修に
「教える技術」や「自己理解」のワークを提供することもできるでしょう。

こうした活動は、直接的な収益を生まない場合もありますが、
地域における信頼の蓄積とブランディングという点で極めて大きな効果を持ちます。

学術的にも、オープンイノベーションの成功要因として
「知識の循環」が挙げられています。

外に出した知識が、別の形で戻ってくる仕組みをつくることが、
組織の持続的成長を支えということです。

飼育動物の貸し出し事業でも、医師会と学校が対等な立場で協働し、
子どもの学びを支えています。

このように、知や資源を一方的に提供する、
あるいは外部のリソースにただ乗りするのではなく、
双方向的な関係を築くことが重要だと思います。

塾が地域に講師や教材ノウハウを提供するからこそ、
逆に地域からも学びの素材を得ることができるという、
「まずは自分から提供する」姿勢が大事になってくるでしょう。

例えば、地元企業の社長が「仕事で必要な数学的思考」を語る講義をしてくれたら、
「数学なんて社会で何の役に立つんだ」と斜に構えている生徒さんに、
新しい視野を開いてくれるかもしれません。

私たちが言っても「勉強させたいための方便」として受け止められるかもしれませんが、
外部の人が言えば説得力が増すというケースもありますよね。

また、農家さんが「天候と生産計画の関係」を解説してくれたら、
学校や塾の授業では得られない生きた学びになります。

そうした経験を塾のカリキュラムに還元すれば、
子どもたちは「学びが社会とつながっている」という実感を得られるはずです。

こうした取り組みもまた、オープンイノベーション的な教育の理想形だと思います。

もしこの仕組みが確立できれば、
塾は単なる「テストの点数を上げて志望校へ行くための場所」ではなく、
「地域の知を結びつけるハブ(結節点)」へと進化できるはず。

塾が主催して地域住民・企業・学校関係者をつなぐ
「知の交流会」や「学びフェスティバル」のようなものを開催できるかもしれませんね。

今までだったら、自塾生向けに教育体験イベントを開催する塾さんも多かったと思いますが、
それをより広く地域全体に開放する視点を持ってもよいのでは、ということです。

このようなプラットフォーム型の運営は、塾の存在意義を大きく変えるでしょう。

ちなみに、お知らせ欄でもお伝えしていますが、
奇しくも弊塾では講師の派遣事業を開始しました。

<個別教育フォレストONLINE>
https://r-partners.jp/online/

よろしければ、ぜひこちらもご検討ください。

講師に限った話ではなく、学びやそのリソースを自塾の中だけに抱え込まず、
「共有する」へとシフトさせることができれば、きっと楽しいでしょうね。

医師会による「動物の貸し出し」も、単なる支援活動ではなく、
“教育の共同創造”というイノベーションでした。

塾もまた、「教室の中で完結しない教育」を志すことで、
地域とともに進化する存在になれるのではないでしょうか。

【今回のまとめ】
・学習塾もオープンイノベーションの発想を
・外部リソースを受け取るだけでなく、提供する意識を忘れずに

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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