【Vol.975(2026.01.23)】不登校の半数近くがHSCという事実を、“誤読”しないために

「不登校の子どもの半数近くにHSC傾向が見られる」という調査結果が出たようです。

<「HSC」と呼ばれる「人一倍敏感な子ども」 不登校経験者の4割超で傾向強く>
https://www.shinmai.co.jp/news/article/gf01d5fhbm6fm43p2oihcub0

HSCとは「Highly Sensitive Child」の略で、「人一倍敏感な子ども」などと訳されます。

生まれつき感覚や感情の刺激に対して敏感な気質を持つ子どもたちのことで、
病名や診断名ではなく、一定の割合で人に分布する特性です。

音や光、人の表情や感情の変化に極めて敏感で、
例えば誰かが先生に教室内で怒られていたら、
まるで自分が怒られているかのように感じて傷ついたり、
普通なら気にしないような、他者の何気ない言動の裏や真意を深読みしたりします。

そのためストレスを抱えやすい一方、
深い思考力や共感性、洞察力という強みにも繋がるため、
環境さえ整えば高く能力を発揮することが特徴です。

このような話題を取り上げると、
「個別指導塾の強みを活かして、HSCをフォローしよう」という発想になりがちですが、
今回はあえて少し逆説的に考えてみましょう。

まず、教育業界はこれまで、新しい概念が登場するたびにそれを分かりやすく単純化し、
「対応できます」「専門です」という形で商品化してきた歴史があります。

HSCという概念も、その延長線上で消費されてしまう可能性がるということです。

例えば、「HSCの子には個別指導が向いている」という発想は、一見もっともらしく思えます。

確かに集団よりも刺激が少なく、一人ひとりに目が届く環境は、
HSCの子にとって安心材料になり得るでしょう。

しかし、HSC傾向のある子どもは、講師の表情や声のトーン、
言葉選びから「こう答えるべきだ」「期待されているのはこれだ」と過剰に読み取ろうとします。

分からないことがあっても、「ここで止まったら迷惑かもしれない」「失望されるかもしれない」
という思いが先に立ち、質問を飲み込んでしまうかもしれません。

講師や塾側の期待に「合わせに」いってしまうのです。

その結果、失敗や停滞を恐れず試行錯誤することよりも、
正解らしさをなぞる学習になりやすくなります。

自己決定理論の観点から見れば、学習の質を支える内発的動機づけは、
「自分で選んだ」「自分のペース」という感覚によって育まれるのは有名な話です。

しかし、講師の期待を過剰に察知してしまう環境では、この感覚が育ちにくくなります。
個別指導でありながら、実質的には「常に評価されている場」になってしまうのです。

塾経営者として特に注意したいのは、
こうした子どもほどトラブルを「起こさない」という点ではないでしょうか。

遅刻もしない、宿題もきちんとやる、態度も良い。

しかし成績は思ったほど伸びない。それでも不満や要望は出てこない。

この「静かさ」を順調だと誤認してしまうと、子どもが限界を迎えたときに、
突然の退塾や学習意欲の喪失という形で表面化します。

ここで改めて考えてみたいのが、HSCを属性として扱うことの是非です。

「HSC専門」「繊細な子も安心」といった打ち出しは、善意から生まれるものですし、
実際にそうした塾さんがあることも存じています。

もちろん、それらを否定する気持ちなど毛頭ありませんが、
同時に子どもに「あなたは配慮される側の人間だ」という
役割を固定してしまう可能性もあることは注意しなくてはいけません。

心理学では、こうしたラベリングが自己効力感を下げることも分かっています。

だとすると、個別指導塾が目指すべきなのは、「HSCに対応する塾」ばかりではなく、
結果としてHSCの子どもも無理をしなくてすむ環境を作ることだと言えないでしょうか。

対象を限定するのではなく、生徒さんとの関係性の質を問い直し、
ありのままの自分でいられるようにする感じです。

こうした姿勢は、HSCに限らず、多くの子どもにとって学びやすい環境を生みます。

例えば期待を言語化しすぎないこと、沈黙を急いで埋めようとしないこと。

過剰な賞賛でやる気を出させようとすることなども、
「先生は、僕(私)にやる気を出させるためにわざと褒めているんだな」と白けてしまったり、
期待を苦痛に感じたりする可能性があります。

そのために必要なのは、指導技術の高度化以上に、大人側の内省です。

講師研修で磨くべきなのは、何も解説力や解法テクニックだけではありません。

生徒さんの反応に過剰な意味づけをしない力や、停滞や遠回りに耐える力、
そして「今すぐ結果を出させたい」という自分自身の焦りに気づく力も大切です。

経営者や講師の短期的な成果志向は、意図せず圧力として伝わります。
その圧を最も敏感に感じ取るのが、HSC傾向のある子どもたちだということです。

HSCへの注目の高まりを、新しい市場の誕生として消費すべきではありません。
教育がどれほど無意識に「適応」を求めてきたかを問い直す契機だと思います。

個別指導塾は、子どもを「変える」場所であることも素敵ですが、
子どもが自分を過度に「変えなくてすむ」場所になれているか、
という視点も持ってみませんか。

それが結果として、長期的な信頼と経営の安定につながると思います。

【今回のまとめ】
・HSCを市場として考える危うさに気付こう
・子どもを「変える」なかりでなく「変わらなくてよい」環境にも意識を

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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