【Vol.876(2025.03.05)】いま一度、原点を考えてみよう! AIツールを使うのは何のため?

近年、教育界を含めて社会のあらゆるところにAIが活用されるようになってきましたね。

そんな中で、こんなニュースが目に止まりました。

虐待の可能性がある子どもを保護するか否かの判断に
AIを用いたシステムを導入する計画を見送ったというものです。

<子どもの虐待判定するAI、導入見送り こども家庭庁>
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0399T0T00C25A3000000/

生身の人間(児童相談所の職員など)なら
虐待の疑いとして考慮していたはずの事象をAIが見落とすなど
判定の精度に課題が残るためだそうです。

そもそも虐待判定にAIを導入しようとした背景には、
児相職員の業務負担軽減がありました。

あまりにも虐待相談件数が多く、アナログのマンパワーだけでは対応しきれないためです。

精度が不十分であるなら見送りもやむなしかとは思いますが、
何でもかんでもAI化し、無批判にそれを受け入れることと比べれば英断だったと感じます。

そして、AIへの過度な依存については学習塾、
ひいては教育界全体も客観的に考える必要があるかもしれません。

学習塾でも学校でも、AI教材の活用は珍しくなくなりました。
代表的なのが、正誤判定や苦手分野を集中的に出題してくれるなどのAIドリルでしょう。

確かによくできていると思いますし、学びの個別最適化促進や、
虐待対応の件と同じように、教師・講師側の負担軽減という意味でも効果的です。

しかし、使い方やAIへの接し方を誤るとデメリットも生じてしまうので気を付けたいところ。

先述したように、AIツールは指導者の負担を軽減します。

そこで生じた余剰時間や労力などを、
メンタルのフォローや授業研究など「人間だからできること」に投じることで
教育の質をより高める狙いがあったはずです。

かねてより、AIを含むICT活用で
「教師(塾講師も含む)の役割が変わる」と指摘されてきました。

「ティーチャー」ではなく「ファシリテーター」としての
存在意義が強くなっていくのではないかという考えです。

しかし、そこをはき違えて指導者側が単なるAIツールの管理者となってしまうと、
思考のプロセスを深める指導や対話的な学びの場が減ってしまいます。

AIツールは指導者を楽にしてくれる性能を持っていますが、
あくまでそこで生じたリソース他に投じるためのものであり、
「楽をするための道具」だとは思わないほうが良いのかもしれません。

AIで対応可能な部分はAIに任せて、
そのぶん自分は何に力を入れるのかを考えることが大事だと思います。

一方で、学習者(生徒さん)の立場で考えるとどうでしょうか。

AI型ドリルは正解・不正解の判断を瞬時に行い、
間違えた問題を重点的に出題する機能を持ちます。

その側面として、自分で試行錯誤する機会が減少し、
学習者の思考力や創造力が伸びにくくなるリスクも指摘されているようです。

何を間違えたかだけでなく、「なぜ間違えたのか」(=思考のプロセス)を
自覚できる働きかけとセットでなければ、ドリルも単なる“作業”になる可能性も。

最近はこのあたりも改善が進められているようですが、
やはりここに「生身の人間」が関わっていくことも大事なのではないでしょうか。

賛否両論あるとは思いますが、
即座に正解・不正解やこなすべき問題を提示してくれることに慣れすぎることなく、
時間や手間がかかっても試行錯誤の末に最適解にたどりつく、
課題発見能力や問題解決能力も育てていきたいところです。

少し横道にそれますが、大学入試で総合型選抜のような入試が出てきたことについて、
その責任の一端は塾や予備校にもあるという指摘も存在します。

かつて受験産業がそこまで成熟していないころであれば、
暗記学力的な力が問われがちな一般入試でも、受験生に相応の工夫、
つまり学習方法や内容に対する課題発見能力や問題解決能力が必要でした。

自分で工夫して勉強しなければいけなかったのです。

しかし、塾や予備校によって
「ここを重点的に学びなさい」「ここは捨ててOK」などの指導がなされ
受験が半ば“テクニック”化したため、単なる合理性と効率性のみの暗記マシーンを生み出し、
ひいては社会で必要な課題発見能力や問題解決能力が十分に育たず、
それを見直すため非認知能力や人的評価に重きを置く入試が台頭してきたという考えです。

なるほど、確かに一理あるかもしれません。

それと同じように、もしAIが生徒さんの「考える力」、
あるいはその機会を制限しているのであれば、
やはり使い方や使いどころには注意しなくてはいけないのでしょうね。

誤解を与えたくないのですが、私はAI教材を否定しているのではありません。

半ば「使って当然」の世の中になりつつあるからこそ、
盲目的にAIを過信しない、批判的思考は持っておくべきだと思います。

もちろん逆に「塾の業務は成績向上や志望校合格への最短ルートをシステム化すること」と
信念を持って割り切るのも、経営判断としてはアリでしょう。

自身が、民間教育サービス機関としてどうしたいのかという価値観のメタ認知の問題です。

何のためにAIを使っているのか、その目的や本質を忘れないようにし、
「人間だからできること」にしっかり力を入れていきたいですね。

【今回のまとめ】
・AIツールは便利だが、過信は禁物
・AI活用によってできた余剰時間をどう使うかが大事

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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