【Vol.951(2025.10.31)】「退塾は自分のせい」と落ち込む講師、どうフォローする!?

「自分のクラスの子が不登校になると、自分の責任ではないかと気になる」――

全国の教員を対象にした調査で、そう感じる教師が77.7%にのぼったそうです。

<不登校対応で教員の悩み「時間」が86% 多忙さが影響か、民間調査>
https://news.yahoo.co.jp/articles/c2ba2a0867c13f979b352e5f8690570329c57848

こうした構造は、個別指導塾にも言えるのではないでしょうか。

担当していた生徒が退塾した瞬間、講師が「自分のせいでは」と過度な自責に陥るのは、
経営者にとっても見過ごせない課題だと思います。

もちろん、仕事に対する一定の責任感は持っていてほしいところですが、
教育心理学の分野では、教師や教育職に特有のストレス反応として
「過剰な自己責任感」が指摘されているそうです。

教育者は、生徒の成果や行動を自分の力量と結びつけて解釈する傾向が強く、
これが職業的バーンアウト(燃え尽き症候群)を招きやすくしており、
また、子どもの学習成果を「自己の能力」と関連づける教師(講師)ほど、
心理的疲労・ストレス反応を強く示すことも確認されています。

特に「担当制」で指導している個別指導塾では、
生徒との関係が密接であるがゆえに、退塾=個人的な失敗と感じやすくなると思います。

これが積み重なると、「自分は指導力がない」「向いていない」という否定的信念へと発展し、
講師の定着率にも悪影響を及ぼしかねません。

確かに、講師の責によって退塾が起こるケースはあるでしょう。
かと言って「お前のせいだ!」と責め立てるのもやりすぎです。

基本はやはり、仲間である講師を守ってあげる視点が大事だと思います。

そうすると、「甘やかしになってしまうのでは」という懸念も生まれるでしょうが、
私は少し違うと思います。

重要なのは、感情論ではなく構造で守ることです。

塾経営において、講師の落ち込みを心の問題として扱うと、
「慰めて終わり」「講師の責任を曖昧にする」方向に流れやすくなります。

真に必要なのは、講師が客観的に事実を把握し、
次の指導改善へと建設的に動ける環境設計のはずです。

例えば退塾が発生した場合、講師本人が単独で原因を抱え込むのではなく、
塾全体で「構造的レビュー」を行う仕組みを持つことなどが挙げられます。

具体的には、以下のような感じでしょうか。

・退塾理由の分類(本人・家庭・講師・塾環境など)
・客観的データ(通塾頻度・成績推移・出席状況)との照合
・講師本人の自己分析+上長フィードバックの両輪
・再発防止策と共有ミーティング

このようにプロセスを明確化することで、講師が「主観的な罪悪感」に溺れることなく、
客観的な改善プロセスに立ち戻ることができるのではないかと思います。

「退塾面談レポート」を講師とマネージャー(教室長など)が共同作成し、
退塾理由を主観ではなく数値・事実ベースで整理するのもよいかもしれません。

授業出席率はどうだったか、家庭への連絡回数はどのくらいのペースだったのか、
ここ最近の定期テストや模試の結果はどう推移していたのか。

このようにデータを整理することで、
「退塾が講師の指導方法とどれほど関係していたのか」を定量的に把握しやすくなります。

もし退塾理由が、家庭や進路、経済的事情などによるものであれば、
講師が過度に落ち込む必要はありません。

仮に講師側の要因が大きい場合であっても、
感情ではなく事実に基づいて改善策を検討できるはずです。

こうした線引きの可視化が、講師の心理的安定と成長の両立を支えます。

講師の責任感は、塾教育の質を支える大切なエンジンです。

しかし、そのエンジンを個人の精神力に頼りすぎると、いずれ摩耗してしまいます。

塾として目指すべき理想の状態は、
「責任感が個人に属さず、組織文化として機能する状態」だと言えるでしょう。

・講師同士が生徒対応の悩みを共有し、協働で解決する事例ミーティング
・生徒アンケートなどを通じて、フィードバックを個人批判でなくチーム改善として扱う
・管理職が、退塾を@責任追及」ではなく「学びの共有」として扱う運営方針

などが考えられるかもしれませんね。

講師のメンタルを守ることは大切です。
しかしそれは、責任放棄や免罪と同義ではありません。

本当に講師の関わり方や授業設計が原因で生徒さんが離れてしまったのなら、
それを正面から見つめ、改善する責任もまたあります。

そこで塾経営者がなすべきは、無差別に講師を責めることでも許すことでもなく、
「再び挑戦できる構造」を与えることではないでしょうか。

人を育てる仕事である以上、失敗も糧にできる組織をどう設計するかが大事ですね。

【今回のまとめ】
・教育職は、生徒さんの成果や結果を自分の責任として捉えやすい
・講師の失敗をただ責めるのではなく、構造的に解決できる仕組みを作る

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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