【Vol.961(2025.12.05)】英検取得のための英語学習?

英検に6級・7級が新設されるというニュースが話題になっていますね。

<英検,6級・7級新設の迷走ーー測りすぎの英語教育が生む副作用>
https://x.gd/ZkfFT

記事では、批判的視点からこのニュースを論じていますが、
確かに、私たち教育に携わる者が見逃してはならない重要な論点を示していると感じました。

「資格試験を増やしすぎると、子どもの学習が他律化していく」という指摘です。

つまり、主体的な学習意欲や知的好奇心による学びではなく、
資格取得が目的化してしまうことへの警鐘だと言えます。

記事にも書かれているように、外在的なインセンティブは一見効果的に思えますが、
実は子どもの内発的な意欲を弱める危険性があるそうです。

神経科学の研究では、興味や好奇心といった内発的動機づけは、
脳の側坐核(そくざかく)を中心とした自発的報酬系に支えられているとされています。

側坐核とは、やる気や意欲、快感などの情報処理を担う脳の部位です。

人は何かを理解した瞬間や、新しい知識に出会ったときに、
自然なドーパミン分泌を経験しますが、
これこそが、本来の学習を推し進める原動力となります。

しかし、外在的報酬、例えば「合格」「資格取得」「高得点」「バッジ」「ごほうび」などが
頻繁に与えられると、脳は「達成そのもの」ではなく、「もらえる報酬」を目標に
学習を進めるようになってしまうのだそうです。

心理学では「過剰正当化効果」と呼ばれ、
外的報酬が内発的意欲を侵食する現象として知られています。

子どもの頭の中で、外的報酬のほうが大事になってしまうのです。

教育研究のメタ分析でも、外在的報酬は短期的には成績を押し上げるが、
長期的には学習の持続性・創造性・深い理解を低下させることが示されています。

教育界には、常に「入試のための勉強」では良くないという
教育的本質を論じる声が常にありました。

英検などを早期(低学年)から実施することも、塾で用いられがちな「ごほうび」のシステムも、
定期テストや入試も、一概に全否定することはできないにせよ、
そのリスクは知っておくべきだと言えるでしょう。

新設された6級・7級は、低年齢層に向けた新たなラダー(階段)として設計されていますが、
その構造は「次の級、次の級へ」という絶え間ない報酬サイクルに
子どもたちを巻き込んでしまうかもしれません。

資格取得という「ごほうび」が学習の主目的として扱われるようになると、
学習の意味は「英語そのものの魅力」から「合格の快感」へとすり替わってしまいます。

低年齢層ほど脳の可塑性は高く、何に喜びを感じるかという
「報酬の基準」が形成される大切な時期です。

そこで報酬依存型学習を続けると、「学ぶこと(による利益や喜び)は外から与えられるもの」
という価値観が深く固定化され、内発的動機は回復しづらくなります。

これは、教育論的に見ても大きな損失です。

ここで重要なのは、「塾がごほうびを与えないようにしよう」という
単純な話ではないと思います。

むしろ、外在的報酬に支配されつつある子どもの学習環境に
「内発的意欲の回路」を取り戻すことに、塾教育の意義があるのではないでしょうか。

教育理論で重要視される「内発的動機づけの三要素」は以下の三つです。

・自律性(自分の行動を自分で選んでいる感覚)
・有能感(自分が何かに優れていたり、能力を発揮して成長できていたりする実感)
・関係性(誰かとつながりながら成長できている感覚)

これらは、個別指導塾が最も得意とする領域でもあります。

例えば「どの教材をどの順番で進めるかを生徒さん自身に選ばせる」、
「点数ではなく理解の深さを褒める」、「生徒さんが自ら質問を作る時間を設ける」、
といった実践は、脳の自発的報酬系を再活性化してくれるでしょう。

さらに、これらを単なる「指導テクニック」として捉えるのではなく、
資格試験の外側にある「学びの本質」を守り、育てる営みだと、
教育者たる矜持や使命感をもって自覚することが大事だと思います。

資格試験の細分化はおそらく今後も続くでしょう。

もちろん、事業としての学習塾を考えたとき、
検定試験や定期テストの点数、志望校合格という目に見えた成果も必要なのも分かります。

しかし、無思慮にそれに乗っかるだけでは、
塾は“資格対策を売る業態”へと矮小化されます。

むしろ塾が目指すべきは、
「学びの他律化が進む社会の中で、あえて内発的意欲を守る砦になる」
という新しい役割ではないでしょうか。

子どもが本来持っている「わかるって楽しい!」という感情は、
テストや報酬の陰に隠れて見えにくくなっているだけです。

ましてや、私たち教育に携わる大人がそれを見失ってはなりません。

それを再点火し、子どもを学びの主人公でいられるようにすることこそ、
塾の存在価値ではないでしょうか。

資格試験が増えても、学習が機械化しても、子どもの「学ぶ喜び」を守れるのは、
個別指導塾のように子どもの内面と向き合える場こそ最適だと信じています。

【今回のまとめ】
・外的な報酬に価値を見出すようになった子どもたちを助けたい!
・個別指導塾こそ、そのアプローチを担える存在

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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