先日、「18歳人口の統計から特別支援学校の生徒が除外されていた」
というニュースが大きな波紋を呼びました。
<特別支援学校生を18歳人口から除外 文科省、大学進学率が不正確に>
https://news.yahoo.co.jp/articles/ecb792e5a88311121f3fa51ea6d3202fda97b563
記事では、データとしての信憑性に関わることが主題となっていますが、
ネットや教育専門家の間では、問題はそれだけではなく
「特別支援学校の生徒は大学へ行かないだろう」という
暗黙の差別的な思い込みがあったのではないか、という批判が強くなっているようです。
確かに、この問題を単なる統計ミスで終わらせてはならないと思います。
同時に、私たち塾経営者も持っているかもしれない、
「無意識のバイアス(暗黙の基準)」を見直すきっかけにしたいところです。
現行の教育制度も、社会の認識も、
長い間「普通=健常児」「大学進学=成功の基準」といった価値観を
前提にしていた部分があると思います。
しかし、そもそも特別支援教育とは、学習的・社会的ニーズに応じて
一人ひとりの力を伸ばす支援教育であり、通常の学校や特別支援学校、通級指導など、
多様な学びの場が連続した教育システムとして位置づけられた存在です。
インクルーシブ社会の理念でもあり、
障がいの有無に関わらず学びの機会を保障することが基本的な理念でしょう。
しかし、統計のフレームワークがその存在を除外してしまうということは、
「対象外の存在」と見なしてしまう構造的な思い込みがあったとも言えます。
そうした無意識のバイアスが、
私たち私教育のサービス提供者、あるいは保護者さん、
もしかしたら子どもたち本人にも存在していないかを考えてみませんか?
・「特別な支援を必要とする生徒さんは受験には向かない」
・「大学受験の指導は通常学級の生徒を対象にすべき」
・「進学実績に影響するから、困難なケースはあまり積極的に受け入れない」
このような言葉は、公然と口にされなくても、
教育活動の設計、マーケティング、指導方針の設定、リソース配分などに
暗黙裡の影響を与えています。
そしてこれは教育機会の不平等を助長し、結果として社会全体の成長を阻害するものです。
実際に、日本の大学や短期大学、高等専門学校には
障がいのある学生が着実に在籍しています。
2022年度の調査では、障がい学生は約49,672人に上り、
大学生全体の約1.5%を占めているそうです。
海外では、かのオックスフォード大学においても、
近年の入学者の約19%が障がいを申告しているという報告があります。
これらのデータは、「大学は特別支援学校の生徒には縁遠い場所だ」という先入観が
統計や実態とかけ離れている証左とも言えるでしょう。
塾経営においても、単純に進学者数や偏差値だけを見るのではなく、
個々のニーズを理解し、支援の幅を広げることが求められています。
では、塾としてどのようにこの問題を捉え、実践に活かすべきでしょうか。
ここではいくつかの視点を考えてみます。
- 受容性のある募集と評価設計
特別支援教育が必要な生徒さんも受け入れられる体制を作り、
それを発信していくことが重要です。
ただし、単に「誰でも歓迎」という曖昧な表現ではなく、
具体的な支援体制、目標設定、成功事例を示すことで、
保護者さん・生徒さんの安心感を高めることができるはずです。
- 学習の多様な「成功」の定義
進学だけが成功ではありません。
例えば、職業訓練校や専門学校、就職準備、
スキル形成といった複数のキャリアパスがあり、
生徒さんのゴールは多様化しているという前提に立つことが大事だと思います。
- 支援ニーズを理解した指導法の導入
合理的配慮や学習支援方法は特別支援教育の専門領域ですが、
最近の研究ではインクルーシブな教育環境が
学習効果と社会参加を促進するという成果も報告されています。
塾としても、個別学習計画やアシスティブ技術(支援技術)の活用、
講師のトレーニングを進めるのは、一つの経営戦略としても考えられます。
今回のニュースが教えてくれるのは、
データや制度が無意識の基準を正当化してしまう危険性です。
「普通、特別支援学校の生徒さんは大学進学しない」
「普通、特別支援学校の生徒さんを塾で見るのは難しい」
「そして普通、特別支援学校の生徒さんも、その保護者さんも、そう思っているはずだ」
特別支援学校だけの話ではありません。
「普通、子どもは勉強が好きではない」
「普通、やる気がない(ように見える)子は伸びない」
「普通、塾に求められているのは成績向上と志望校合格だ」
……いやもう、よく考えてみれば「普通」って何なんでしょうね。
「普通」という言葉は便利ですが、
その裏には「基準に合わないものは除外しても良い」というバイアスを内包してしまいます。
これは教育の本質から大きく離れたものです。
塾経営者として、「普通が基準になる」という前提を問い直し、
個別ニーズの理解と支援の拡充を実践することは、単なるビジネスの差別化ではなく、
教育における公平性と可能性を広げる社会的な責任だと思います。
多様な学びを支える塾であることは、
これからの教育ニーズと社会変化に対応するうえでの大きな強みになるはず。
教育の基準が変われば、塾の価値も変わります。
偏見ではなく可能性を基準にした教育に取り組んでいきたいものですね。
【今回のまとめ】
・塾業界の「普通」を改めて問い直してみませんか
・私たちの「普通」から漏れてしまった子どもたちの存在を忘れずに
