【Vol.967(2025.12.26)】努力できないのは誰のせい?

先日お知らせしました原田隆史先生のセミナー案内でも触れているように、
保護者さんがつい使ってしまいがちなフレーズが「うちの子はやる気がなくて……」です。

同じように「努力ができなくて……」という言葉もよく耳にします。

この「努力」という概念も、よく考えてみればやっかいですよね。
何をもって「努力」とするのかは主観によるものが大きいからです。

それなのに私たちは、無意識のうちに「努力できる子/できない子」という二分法で
生徒さんを見てしまってはいないでしょうか。

下手をすると、生徒さん自身が自分を
「努力できない人間」と評価している可能性もあり、大きな問題です。

この問題解決について、このほどスポーツ庁が公表した最新の体力・運動能力調査に、
大きなヒントを見ることができそうなので、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。

特に私が気になったのは、体育の授業が「楽しくない」と答えた児童生徒が、
「楽しくなる条件」として挙げた上位4項目でした(下記)。

1.自分のペースで行うことができたら
2.できなかったことができるようになったら
3.できる・できないだけで比べられなかったら
4.自分に合った場やルールが用意されていたら

注目したいのは、これらの答えの中に
「もっと頑張れたら」という「努力」のニュアンスが入っていないことです。

つまり、そもそも「努力ができる条件」が整っていないということなのかもしれません。

教育心理学では、努力は個人の性格特性ではなく、
環境との相互作用によって生じる行動と捉えられています。

有名な「自己決定理論」によると、人が自発的に行動するためには、

・自律性(自分で選んでいる感覚)
・有能感(できるようになっている実感)
・関係性(受け入れられている感覚)

の3要素が満たされる必要があるのだそう。

体育嫌いの子が体育を好きになる条件として挙げた上記4項目にも、
まさにそのまま当てはまる要素です。

これは、体育を一般の教科学習や授業に置き換えても、
そのまま言えることではないでしょうか。

そこで、あえて原点に立ち返って考えてみたいのは、
私たちの個別指導塾は、本当に「個別」になっているかという点です。

個別指導は、本来、生徒さん一人一人に合わせて「場を調整できる」学び方のはず。

しかし現実には、学年進度を前提にしたカリキュラムになっていたり、
週◯回・◯分という固定的な時間設計になっていたり、
テスト点数中心の成果報告になっていたりします。

つまり「平均的な子ども」「一般的な学び方」を想定したルールが、
暗黙の了解になっている部分があるのではないかと思うのです。

体育で言えば、「50m走は全員同じ距離、同じルールで走る」のと同じことを、
学習でもしている可能性があるという感じですかね。

その結果、当然ながら一定の生徒さんにとっては
「速すぎる」「比べられ続ける」「どこが良くなったのか分からない」という状態が生まれ、
それを大人は「努力できない子」とラベリングしてしまうのです。

しかしこれは、子どもの問題ではなく、学び方の設計の問題だと思います。

例えば体育では、跳び箱が1段上がった、前より速く走れた、
といった身体感覚としての進歩がありますが、
学習では「テスト結果」に回収されがちで、途中の成長が見えにくいですよね。

だからこそ、個別指導塾では、定期テストの点数報告とは別に、
日々の小さな、「個人の」変化に目を向けてあげてください。

例えば、計算ミスが◯個減ったとか、途中式を書けるようになったとか、
以前より集中が5分長く続いたとか、難しい問題を諦めなくなったとか。

そういった変化を言語化して生徒さんや保護者さんと共有できれば、
短期的な点数(偏差値)変動があっても、退塾率は下がり、満足度は上がるはずです。

「できなかったことができるようになる」とは、
テストの点数や成績の上昇だけを指しているのではないはずですよね。

むしろ、そこに至るまでの小さな成長をどれだけ拾い上げられるかが、
個別指導塾の価値だと思います。

また、「体育が好きになる要素」の4項目目に挙げられた、
「自分に合った場やルールが用意されていたら」という項目にはより注視してください。

努力を引き出すために子どもを変えようとするのではなく、
塾のほうが変わるべきという意味にも考えられるからです。

何がどこまで可能かは別として、
授業時間を短く分ける、宿題を一律に出さない、評価軸を複線化するといった
文字通りの「個別対応」は、決して「甘やかし」ではありません。

むしろ、子どもが努力できる状態を構造的に作り出す行為と言えます。

つまり、「努力できない子」なんていなくて、「努力できない構造」があるだけなんですよね。

個別指導塾経営とは、必ずしも教える技術を競う仕事ではないと思います。

努力が生まれる場を用意し続けることこそ、本当に大事なミッションなのかもしれません。

【今回のまとめ】
・子どもが「努力できない」のではなく、努力できない環境になっていないか確認を
・結果ではなく、過程の中の小さな変化や成長を見逃さない

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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