【Vol.986(2026.03.04)】「足りない」から始まる学びを考え直す

文科省が公表した調査で、全日制普通科の66.6%が卒業に必要な修得単位数を
75単位以上に設定していることが分かったそうです。

<学期ごとの単位認定、全日制公立高校の実施1割以下…文科省調査>

https://x.gd/MsskJ

それの何が問題かと言うと、制度上の卒業要件は74単位だから。

しかし、実際には7割近くの普通科高校が
単位(学ぶべきと考えていること)を上乗せしているのが実情です。

つまり、学校の多くが「74単位の学びでは足りない」と考えているということですね。

では、なぜ74単位では足りないのでしょうか。

おそらく高校現場では、大学入試の高度化・多様化への対応圧力が強いのでしょう。

共通テストは思考力・判断力を問う設問が増え、
総合型選抜や学校推薦型選抜も拡大しました。

進学実績を求められる学校ほど、「最低限」では不安が残ります。
結果として、単位を積み増しして学習機会を増やす方向へと舵を切るのです。

しかし、ここで気を付けたいのが、
学習量の増加がそのまま成果に直結するとは限らないことです。

教育学上の研究でも、単に授業時間を増やすことの効果は限定的であり、
フィードバックの質や学習の可視化のほうが大きな影響を持つと報告されています。

学習量の拡大が無意味なわけではないですが、
それだけでは決定打にならないということですね。

それでもなお学校が単位数を積み増していくのは、
教育を取り巻く「不安の構造」が影響しているのだと思います。

大学全入時代を迎える中、「足りなかった」と後から言われることが怖いのです。

これは保護者さんや生徒自身、そして私たち学習塾も同様です。
「これだけ勉強すれば十分です」と言い切ることが難しい環境にありますよね。

いや、むしろ、塾こそが「足りない」という感覚の受け皿になってきたのが現実でしょう。

「学校の授業だけでは不安」「もっと演習量を増やしたい」という相談は日常的です。
私たちはそれに応える形でコマ数を増やし、講習を提案し、教材を積み上げてきました。

夏期講習などでの大量の履修提案が物議を醸すこともありますが、
私たちとしても「足りない」「必要だ」と思っているからこそ信念を持って提案し、
生徒さん側も納得して受講しているわけですよね。

それをシニカルに言うならば、誰かが悪いわけではなく、
学校も塾も生徒さんも保護者さんも、誰もが「足りない」に追い立てられていると言えます。

社会や入試の構造を背景に学びが「足りない」のが現実ならば、
それを一介の塾が変えることは確かに難しいです。

しかしあえて、自戒を込めて考えてみましょう。

私たち塾は「不足を補う存在」でしょうか。
それとも、本意ならずとも「不安を増幅する存在」になっているのでしょうか。

事実として、高校はすでに制度基準を超える教育量を提供しています。

それでも不安は消えていません。

もし教育量・学習量の上乗せが安心の源泉だと思っているなら、
安心は永遠に訪れない可能性があります。

そこに上限はないからです。

だとすると、個別指導塾が果たすべき役割は、単に量を足すことばかりではなく、
「十分とは何か」を問い直すことなのかもしれません。

もちろん、単に授業や講習の回数や時間を減らしましょうという話ではないですよ。

その生徒さんにとって、どの単元が本当に弱点なのか、
どのレベルまで到達すれば目標校に届くのか、どの科目に時間を配分すべきか――

こうした設計を明確にすることで、無限に増殖する
「もっとやらなければ」を止めることができるのではないかということです。

教育心理学では、目標が具体的で測定可能であるほど、
過度な不安は軽減されることが示されています。

私たち人間は、曖昧な不安をつい量で埋めようとしますが、
具体的な目標は戦略を生みます。

メジャーリーガーのダルビッシュ選手も言っていましたよね。

「練習は嘘をつかないって言葉があるけど、頭を使って練習しないと普通に嘘をつくよ」。

単に努力を量としてこなすのではなく、
目的意識を持ち効率的に取り組む重要性を説く格言として、SNS上でバズりました。

塾は、戦略を提示できる場です。
加えて個別指導という形態は、そこに最も適していると言ってよいかもしれません。

もちろん、経営的に見れば、コマ数増は売上増に直結します。

しかし、あえて「これ以上は不要です」と言える場面があってもよいはずです。

その判断基準を持っている塾こそが、長期的には信頼を得ます。

不安を刺激して拡大するモデルは短期的に伸びるかもしれませんが、
持続可能とは言えないですよね。

目先の売上が欲しくなる気持ちは私も十分理解していますし、
「あえてたくさん売らないようにして善人ぶろう」と言いたいのでもありません。

根拠を持って、何がどのくらい必要かを見極められる塾を目指そうということです。

塾を「不安産業」と揶揄する言葉があるのも知っています。

しかし初めから「不安につけこんでやろう」という意図で
塾をやっている経営者なんていないですよね?

「生徒たちのために」「よりよい教育のために」という思いから教室を開いたはずですし、
少なくとも私の周りにいる塾経営者たちはみなさんそうです。

塾は学校の下請けでも、競争相手でもありません。

学校がどうしても学びの積み増しを続けざるを得ないのであれば、
私たちもそれに追従するばかりでなく、「どこまでやれば十分か」を言語化し、
量ではなく、質と設計で安心を提供できる存在を目指したいものですね。

【今回のまとめ】
・現在の教育は上限のない「足りない」と「不安」でできている
・だからこそ塾は安心を提供できる存在に

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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