【Vol.730(2023.09.29)】従業員に弁償を求めることはできる?

先日、市立学校で先生がプールの水をうっかり出しっぱなしにしてしまい、

市が、それによって生じた水道代の損害(の半額)・95万円について

担当した教師個人と校長に弁償を求めたという報道が話題となりました。

その是非について賛否両論が飛び交っていましたが、

けっきょく先生方はそのお金を支払ったそうです。

<小学校でプールの水出しっぱなし 半額の約95万円 川崎市に弁償>

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確かに自分自身のミスではあるのでしょうし、

校長先生も管理者責任を問われた形なのでしょうが、

世間では「さすがにそれは厳しすぎる」という声が多かったようです。

高い勉強料になってしまいましたね……

しかし似たようなケースは、学習塾でも十分にあり得ることだと思います。

従業員の業務上のミスで塾に損害があった場合、

塾として個人にどこまで責を負わせるのかという判断です。

仮に塾内での犯罪行為や、故意に損害を与えるなどがあった場合はともかく、

実際には「わざとじゃない」というケースが多いですよね。

たとえばある生徒さんが「あの先生、キライ!」と塾を辞めてしまったとしても、

そのたびに講師に損害賠償など求めていられません。

そこで、従業員に対する損害賠償はどこまで許されるのかについて、

少しネットで事例を調べてみました。

私は法律の専門家ではないので、あくまで事例(事実)をシェアし、

所感を述べるくらいしかできませんが、みなさんの参考になれば幸いです。

そもそも、従業員が仕事でミスをしたことで塾(会社)に損害を与えた場合、

賠償を求めることは可能なのでしょうか。

基本的には、その損害が労働契約に違反することで生じたものや、

不法行為によるものであった場合は請求ができるようです。

たとえば生徒さんとの個人間連絡や交遊を禁止しているにも関わらず、

講師がこっそりLINE交換して遊びに連れ出し、そこで事故がおきて生徒さんが怪我をした、

保護者さんはカンカンに怒って「責任を取れ!」と言っている……

といった場合は請求もできるということでしょう。

とは言え、そこは私たち(塾長)にも使用者責任があるので、

損害を全額請求することはできません。

全額の賠償を求めることができるのは、

会社のお金を盗んだといった明らかな犯罪行為や、

故意に損害を与えたようなケースが該当します。

また、企業経営には「報償責任の法理」というものがあるそうです。

会社は利益を出すために活動しており、従業員の労働もその一部。

利益を得るのが会社であるならば、損失も会社が負うべきという考え方です。

確かに、利益だけはもらうけど、損失は従業員が補えって、

どこの超絶ブラック企業だよって話ですよね(笑)。

まあ仮に従業員(講師)の過失による損害でも、

実際に請求するかどうかは別問題になるのでしょうが。

実際の判例を見てみると、こんなケースがありました。

ある会社の従業員が仕事中に車で事故を起こし、他社の車に追突してしまいます。

会社は、その損害の全額を従業員に求めましたが

裁判ではその1/4のみ認めるという結果になりました。

その理由の一つに、「臨時的な業務中の事故で、かつその賃金も安いものであった」

「従業員の普段の勤務態度は悪くなかった」ことが指摘されたそうです。

つまり、まじめに働いている人間をこき使ったのは会社だろ!ということのようです。

これを塾に置き換えてみると、人が足りなくていつもより多く授業に入ってもらう中で

何らかのミスにより損害が起こった……みたいな感じでしょうか。

ほかのケーススタディでは

「会社のお金で留学し、帰国後すぐ退社した社員に留学費用の返還を求めるのはOK」とか

「でも、その留学が会社命令であった場合は請求NG」とかいった事例も見られました。

塾でも、社員や講師が外部の研修に参加する費用を

塾側でなどを出すことがあると思いますが、そのあとすぐ辞められたらどうなるのか、

みたいなケースは想定しておいても良いかもしれません。

さらに、教室の備品を壊したような場合、給与からさっぴく形で弁償させるのはNGです。

給与は給与で支払った上で、損害賠償請求しないといけないのだそうです。

このようにいろいろなケースが想定されますが、実際には、

それまでの講師との関係性などさまざまな要素が絡み合いますし、

仮に賠償を求めることができる事案であっても、かわいい従業員たちです。

こちら側としては「かわいそうだ」という気持ちも働きます。

こうなると「雇用契約を結ぶときに初めから損害賠償に関する条項を設けておけば」

と考えてしまいますよね。

しかし、労働基準法においては、従業員の労働契約の不履行に対し、

違約金や損害賠償を払う旨の契約をしてはならないそうです。

今回の川崎市のプールの事例では、市に批判的な意見が多数寄せられました。

法的に正しいものであっても、

市民感情としては批判の対象になる場合もあるということでしょう。

すべてのパターンに事前対応するのは不可能でしょうが、

塾でも「もし従業員から損害を与えられたらどうするか」という一定の方針は

定めておいたほうが良いかもしれませんね。

【今回のまとめ】
・従業員から損害を与えられた場合の想定をしておく

・法的解釈だけで割り切るのは得策ではないかも

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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