【Vol.901(2025.05.28)】通知表廃止で保護者さんの価値観が変わる?

岐阜県美濃市の全小学校が、小学1年生に対して通知表を廃止する決断を下しました。

<小1の通知表を廃止、「自己肯定感が下がる」との意見受け…岐阜・美濃市「評価に縛られず伸び伸びと」>
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20250502-OYT1T50214/

従来の通知表発行による「◎・○・△」による3段階評価をやめ、
これに代わって文章による総合所見の修了証を手渡すという形です。

児童が「評価」やそれに基づく他者比較に捉われ、
自己肯定感が下がるのではないかとの懸念からの措置で、
通知表を発行するのは3年生からにするとのこと。

賛否はあるのかもしれませんが、いやー、思い切った判断ですよね。

これは一見すると、小学校低学年に限られた話で、
私たち(主に中高生をメインターゲットとする塾)には
あまり関係ないニュースのように思われるかもしれません。

実際に同市でも、小学3年生からは従来通り通知表が配布されるわけですし、
中学生、さらには高校・大学進学を見据えた学習においては、
通知表の内容が進路に直結するため、評価そのものの重要性は今後も揺るがないでしょう。

しかしこの動きは、中高生を主な指導対象とする個別指導塾にとっても、
決して無関係ではないように感じます。

この先、保護者さんが塾に求める価値観がどう変わっていくのかを
読み解くヒントが詰まっているのではないでしょうか。

通知表廃止の背景にあるのは、
「数字による評価が、子ども同士の比較や自己肯定感の低下に繋がるのではないか」
という懸念、あるいは評価主義的な教育そのものへのアンチテーゼです。

これは学校教育に対する問題提起であると同時に、
数字を主な指標にしてきた私教育のあり方にも問いを投げかけていると感じます。
個別指導塾の多くは、定期テスト対策や内申点アップ、
志望校合格をメインの商品としており、
成績という「見える指標」を提示することは当然と言えば当然です。

実際、保護者さんも生徒さんも「通知表の評価を上げてほしい(上げたい)」
「英語が3から4になってほしい(したい)」といった、
具体的な要望を持って塾の門を叩きます。

しかし、たとえ小学校低学年のみとは言え、
「通知表がない」世代の子どもを育ててきた保護者さんたちは、
以前よりも「言葉によるフィードバック」や「子どもへの心理的配慮」に敏感になるでしょう。

今後、こうした価値観を持った層が中学生の保護者さんになるころ、
塾に求められる期待値も変化してくる可能性があります。

「テストの点が20点上がりました」といった報告も嬉しいですが、
「自分から問題を解く意欲が見えた」「失敗しても再挑戦する姿勢が出てきた」といった
プロセスの承認や学習習慣の変化の報告が、
より保護者さんの心に届くようになるかもしれないということです。

では、通知表による評価のある中学生相手に、
承認型の声かけやフィードバックを導入することは矛盾するのでしょうか。

私は、そんなことはないと思います。

むしろ数字で評価される年齢だからこそ、
数字に囚われすぎない「価値の伝え方」も必要になるはずです。

例えばテストの点数が思うように上がらなかった生徒さんに対して、
ただ「今回は平均点を下回ったね」と伝えるよりも、
「ワークの提出が前回より早くなったね」「ケアレスミスの数が減ったね」といった
声かけを積み重ねたほうが、生徒さん自身が成長を実感しやすくなるはずです。

この自己効力感の積み重ねが、結局は持続的な成績向上にもつながっていきます。

学習はスプリントではなく、長距離走なのですから。

同市では、通知表が廃止された小1に対し文章による所見が手渡されるそうですが、
これにならい、塾でも「ことばの通知表」を導入することが考えられます。

例えば月に1回保護者さんにレポートを送るとして、
点数や宿題提出率といった数値情報だけでなく、
「その子らしい頑張り」や「変化の兆し」を講師の言葉で綴る内容にするとどうでしょう。

こうした所見は保護者さんの共感を生みやすく、
単なる“学習管理”ではなく「人を見てくれている塾」という印象を与えるはずです。

特に中小規模の塾にとっては、大手さんとの差別化要素にもなります。

大手さんがシステム化された指導を強みとする一方で、
小規模塾だからこそ可能な「顔の見える言葉」が価値になるはずです。

結論として、通知表廃止の動きが、
今すぐ中高生の指導に変化を与えるわけではないと思います。

しかし、数年後には「評価より承認」「点数より変化」を大切にする保護者さんが、
着実に増えていくはずです。

塾の現場においても、「点数を上げる」ことと「自信を育てる」ことを二項対立にせず、
両立を目指す視点が大切だと思います。

そのためにも、数字の奥にある「その子なりの努力」や「行動の変化」に目を向け、
それを丁寧な言葉で伝える力――すなわち「承認の技術」を、
今から育てておくべきではないでしょうか。

小1の通知表廃止は、まだ一部の自治体の取り組みにすぎませんが、
これを日本全体に変化を及ぼす“前兆”と捉えることもできるはずです。

数字中心の塾運営に慣れすぎていると、
変化する保護者さんの期待値に取り残されるリスクもあります。

数字とことば。評価と承認。

どちらも大切にできる塾こそが、今後、選ばれる存在となっていくように思います。

【今回のまとめ】
・数字のみで判断しない価値観を持つ保護者さんが増えていくかも
・今のうちから、評価と承認を両立したアプローチを

この情報をシェア
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

目次