2030年度からの次期学習指導要領で、意見が分かれるテーマについては
全教科について「多面的・多角的な考察」を求める方針を示したそうです。
つまり「こういう意見もあれば、こんな見方もあるよね」という授業を
大事にしてくださいということです。
背景には、同志社国際高校の辺野古での問題が
「特定の考え方に偏った活動だった」とされたことも影響しているのかもしれません。
現行の指導要領では社会科のみが対象となっていましたが、
全教科を包括する「総則」に明記する方向になったのがポイントだとのこと。
<「多面的・多角的な考察」が全教科対象に 次期学習指導要領で「総則」に明記へ>
https://www.sankei.com/article/20260722-7CHQ4XM4EBKRHPTE2IVSBHGG5I/
実際にこの考え方が現場で動き始めたら、
学校や塾の授業のあり方にはどんな変化が起こるでしょうか。
もちろん学習指導要領は学校教育の課程について定めるものですから、
塾がそれに従うべき法的根拠はないのですが、
学校の授業が変われば塾にも多分に影響はあるでしょうから、ぜひ考えてみたいところです。
さて「多面的・多角的な考察」と聞くと、多くの人はやはり社会科を思い浮かべるでしょう。
政治や歴史には様々な立場や価値観があるため、
「多面的・多角的」という表現は比較的イメージしやすいからです。
一方で、数学や理科、英語といった他教科ではどうでしょうか。
「基本的に答えが決まっている教科なのだから、多面的に考える余地なんてあるの?」
という気もしますよね。
しかし、例えば数学の連立方程式の問題であれば、
加減法でも代入法でも解くことができます。
図形の問題でも、図を補助線で考える方法もあれば、方程式を立てる方法もあります。
答えは一つですが、そこへ至る道筋は一つではありません。
近年の数学教育では、「なぜその解法を選んだのか」「他の方法と比べて何が良いのか」を
説明する活動も重視されています。
つまり、「唯一の正解」を覚えることではなく、
「複数の見方を比較し、自分で最適な考え方を選ぶこと」が学びになっているのです。
理科はさらに分かりやすいかもしれません。
実験で予想と異なる結果が出たとして、単に「失敗した」で終わるのではなく、
「測定方法に原因があったのではないか」「別の条件が影響したのではないか」
「そもそも最初の仮説が違っていたのではないか」と複数の可能性を考えることができます。
科学とは、まさに一つの現象を様々な角度から検証し、
最も妥当な説明を探していく営みですものね。
国語もそうですよ。
「このときの筆者の考えを述べよ」という評論や読解問題も、あり方が変わって、
「その根拠と共に述べよ」「別の立場ならどう考えるか」といった出題になるかもしれません。
小説を読む授業でも、「あの場面を母親の立場から読むとどう見えるか」や
「友人はなぜあの言葉をかけたのか」といった問いの設定も出てきそうですよね。
音楽や美術も、一つの作品に対して「作曲者はなぜここで転調したのか」、
「なぜこの色で表現したのだろうか」などを複数の視点から読み解くことは、
芸術教育の本質でもあります。
「多面的・多角的」と聞くと、つい私たちは、
「賛成・反対を両論併記で扱うこと」「どんな意見も同じ価値があると教えること」という
民主主義精神のようなイメージを抱きがちです。
しかし、こと今回の指導要領が目指す方向性に限って言えば、
「一つの事象を一つの見方だけで終わらせないこと」と表現するのが適切かもしれませんね。
私は、この変化は塾にとっても大きな意味を持つと思います。
学習塾では、成績向上や受験突破、あるいはその効率性アップに向けて最適化された、
「一番分かりやすい解き方」を教えることが少なくありません。
もちろん、それ自体は必要です。
限られた時間で成果を出すためには、効率的な指導も重要でしょう。
ただその一方で、私たちは無意識のうちに、
生徒さんの思考を一つの型にはめてしまっていないかは自問したいところです。
例えば数学で、「この問題はこの解きなさい」とだけ教え続けてしまうと、
生徒さんは他の考え方を試そうとしなくなります。
国語でも、「この登場人物の気持ちはこれが正解」と教えれば、
自分で本文を根拠に考える機会は減ってしまうでしょう。
英語で「単語はこう覚える」と決めつけてしまえば、
それに合わない生徒さんにとっては効率が悪くなります。
教育心理学では、学習内容そのものだけでなく、
「なぜその考え方を選んだのか」を言語化する活動が
理解の定着や応用力の向上につながることが知られています。
自分の思考を振り返るメタ認知を促すことで、新しい問題に出会ったときにも、
既習事項を柔軟に活用しやすくなるからです。
本来、一人ひとりに合わせた指導ができるのが個別指導塾です。
たとすると「別の考え方もあるよ」「他の方法でも解けるよ」というアプローチを
忘れてはいけないと思います。
その積み重ねが、思考の柔軟性を育て、
ひいては塾の「面倒見のよさ」という言葉になって評価につながるのではないでしょうか。
答えが一つの教科でも、考え方は一つではない――
この視点を持つだけでも、私たちの授業は少し変わるように思います。
【今回のまとめ】
・次期指導要領では「多面的・多角的な考察」が全教科で求められる方向に
・一つの解法がすべての生徒さんにとってベストとは限らない
