【Vol.736(2023.10.20)】無知が招いた発言

先日、とある記事を読んで言葉を失いました。

【フリースクールは「国家の根幹を崩しかねない」 東近江市長が発言/朝日新聞デジタル】
https://www.asahi.com/articles/ASRBK6DD9RBKPTJB00C.html

不登校対策について議論する滋賀県の首長会議での発言です。

「不登校の大半は親の責任」
「大半の善良な市民は、嫌がる子どもに無理してでも義務教育を受けさせようとしている」
「フリースクールは国家の根底を崩してしまうことになりかねない」
などと発言しています。

いやー、本当になんと言っていいのやら……

これだけ学び方の多様性が叫ばれ、
必ずしも学校へ通うばかりがすべてではないという考え方が浸透した現在において、
まだこんな考え方をする人がいるのかと驚きます。

しかもしれが行政の長だなんて……

特に、東近江市でフリースクールに通っているご家庭、
不登校の生徒さんやその保護者さんは深く心をえぐられたのではないでしょうか。

学習塾と並行して、フリースクールを展開されている塾長さんも何人か存じ上げていますが、
みなさん、身を粉にして子どもたちのフォローに取り組んでおられます。

そんな先生方も怒りや悲しみに打ちひしがれておられるでしょう。

現状を全否定されているといっても過言ではなく、本当にひどい発言(思想?)だと感じます。

確かに、報道だけを見てすべてを判断することはできません。
発言を切り取られたかもしれませんし、もっと深い意図があった可能性もあります。

ただ、現時点で私がこの報道から感じるのは、この市長は
「学校に行くのは当然。行けないのが悪いのであって、その人たちを優先する必要はない」
といった考えをお持ちなのかなということです。

うつに対する社会的理解が低かったころ「うつは甘え」などと言う人もいましたが、
それと似ているかもしれません。

また、今の学校教育というシステムが、
時代にマッチしていないことに全然気づかれていないようです。

少しずつ変わりつつありますが、いまだに一方通行の一斉授業で、
習熟度がバラバラの生徒たちを同じペースで学習させるのが主流のままです。

世の中が激流のごとく変化しているにもかかわらず、
明治時代から150年間変わらないこのシステムは本当になんとかすべきだと思います。

このやり方を一概に否定するわけではありませんが、
この枠にはまらない子どもたちも増えてきたのも事実であり、
それを受け入れ改善していくことがこれからにつながるのではないでしょうか。

「それでも学校は行くものだ」と枠に嵌めようという考えがとても恐ろしいです。

例えばギフテッドと呼ばれる特殊な才能を持った子どもは、
今の学校教育にキレイにはまるとも思えませんし、
「つまらないから学校へいかない」という子どもも出てくるでしょう。

また、起立性調節障害で行きたくても学校に行けない、
怠けているのではなく、病気として朝起きれない子どもたちも増えていています。

増えているのか、こういった病状が一般化されてきたから認知されだしたのかは不明ですが、
そういった子どもたちも今の学校に合わせて生活するのはとても大変で苦痛なはずです。

だから、フリースクールが学校に合わない子どもたちの受け皿となり、
これから日本を支えていく若い芽を伸ばしていくために存在していることを
この市長さんはどう思っているのでしょうか。

年々子どもの数が減っているにもかかわらず、
不登校の子どもたちが増えている明らかな機能不全状態をどう感じているのでしょうか。

それでも「不登校になるほうが悪い」とおっしゃられるのでしょうか。

また「不登校の大半は親の責任」とも発言されていますが、もしそう思うのであれば、
不登校になってしまう要因と考えられる家庭環境の改善に努めたり、
親が孤立せず子育てで相談できるような仕組みなどを作ったりすることが
本来の政治のあるべき姿だと思います。

もしこの市長さんのお子さんが不登校でも、同じ発言をしておられたのでしょうかね。

フリースクールや不登校に関しての知識が無知だったのであればそれは怖い話ですし、
すべてを理解した上での発言だとしたらもっと怖いですが。

富山県でひきこもりや不登校の人たちを支援している友人がいます。
その友人がfacebook上でこうコメントしていました。

(一部抜粋 原文ママ)
=====
昨日もそうですが、ひきこもっている若者とこの市長の発言の話をしました。彼は言います。
「この価値観にやられて自分は潰れてしまったんだ。」そうなんです。
そんな風に語るひきこもり当事者はとても多いのです。

「親が悪い」と断じられるもんだから、自分が不登校の状態であることが
「悪いこと」と言われてる気がして、無理して行った結果潰れてしまった。

甘えでも何でもなくって、本当に学校に行こうとしたら足が動かなくなるし、吐き気がするし、
体調も悪くなるのに無理やり行かされて潰れてしまった。

学校に行けなくなった自分はダメな人間なんだ。

自分がいたら家族にも他の人にも迷惑がかかっちゃうんだ。
わかってるけど無理してでも行こうとしても行けないんだ。もう生きていくのが辛いんだ。

無理した結果、大人になった今でも何にも信じることができなくなって、
人と接することがわからなくなって、自分の考えがあってもいいのかわからなくなって、
外に出れなくなった人たちの話を多く聞いてきました。それが僕の見てきた景色です。

その景色を見てきた自分が言いたいことは、
市長さんにはまず彼らの話を聞いてみてほしいなということ。

話を聞いたらきっと「ああ。そういうことか。」ってなると思うから。少なくとも今よりは。

=====

※全文は下記をご覧ください。
https://www.facebook.com/jun.miyata.52

現場のリアルな声として、刺さるものがありました。
「不登校=悪い」というレッテルは、当事者からしたら地獄でしかありません。

また、この記事に関して、友人の塾長さんがこうコメントしていました。

=====
そこまで感度が高くなくて身近に不登校の子がいなければ、
そう思っちゃうんかもしんないですね。

発達障害も学習障害も知らなかった、
塾講師はじめたての頃(10代)の自分を思い出しました。

自らの無知で多くの子を傷つけてきたんだろうなぁと未だに思います。
=====

なるほど、その通りですね。

人間、見てきたものや触れてきたものに大きく左右されることに気づかせてもらいました。
自分の周りだけでなく、俯瞰することの大切さも感じました。

そして1番の気づきは、無知は罪であるということ。

私もこの塾長さん同様、学生時代でアルバイトの家庭教師をしていた時から、
社会人になって40代手前まで、
恥ずかしながら発達障害や学習障害、起立性調節障害などの知識は皆無でした。

「なぜ何回言っても分からないのか、理解しないのか」、
「なぜ英単語の発音が苦手なのか」、「朝起きずに学校に行かないのか」など、
当時は意味不明だったのです。

無知だからこそ、相手を追い詰めたり悲しませたりしたと猛省しています。

もしかしたら、市長さんの現状認識は当時の私と同じようなレベル感なのかもしれません。

そういう意味で言えば、今は偉そうにこの市長さんを糾弾するようなことを書いていますが、
そんな資格が私にあるのかという気もします。

しかし、本当のことに気付いたからこそ、自分へのブーメランも覚悟してでも
やはり声高に指摘すべき、大事なことだと思ったのです。

今も発達障害や学習障害、起立性調節障害などについて学び続けていますし、
それぞれの症状に合わせ、特性を活かした指導などを
提案・アプローチするように心がけています。

例えば目から情報が入りやすいタイプなのか、耳から情報が入りやすいタイプなのかなど
できる限り工夫した授業を展開しています。

フリースクールの仕組みや中身なども学びある程度のことは把握しているつもりです。
ただ、すべてにおいて完璧とは言えませんので、日々勉強中の身です。

とにかく、知っているのと知らないのとではこうも対応が変わると思うと、
無知の怖さを感じざるを得ません。

この市長さんも、学校現場や子どもたちの特性の現状をしっかり学ばれていれば
今回の発言もまた違ったものになっていたのではないかと思いますし、
今後学ぶことによって発言の撤回や謝罪などの行動も見られるのではないかと思います。

今回の記事を通じて私自身が何をすべきかと考えたのですが、
今の私にできることは、全国の学習塾関係者に、
発達障害や学習障害、フリースクールの活動内容などの知識をつけてもらうための
学びの場を提供することだと思いました。

そこで今後は、専門家をお招きしてセミナーを開催していこうと考えています。

塾の売上に直結するような集客や指導法関連の内容ではありませんが、
塾運営をしている方全員に必要な知識だと思います。

みんなで学んで、目の前の生徒さんに対して最適なアプローチを見つけることができるよう、
一緒に正しい知識をつけていきましょう。

無知がどれほど残酷で人を傷つけるか、改めて考えさせられるきっかけになりました。

【今回のまとめ】
・知らないことを主観で発言するのは、誤解や間違いを招く
・学び続け、知ることが大切

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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