【Vol.861(2025.01.10)】塾の先生は、子どもにとって憧れの存在ではない!?

言うまでもなく、学習塾の原則的な存在意義は成績向上や志望校合格です。

しかし、ただそれだけを事業サービスとして提供できていれば良いと
ドライに割り切っている塾経営者は少ないかもしれません。

学力向上への寄与はもちろんながら、人生で大切なことを伝えたり、
人間としての成長をサポートしたりといった「教育」的な理念を抱いている人は多いでしょう。

特に、個人塾の塾長はそうした傾向が強いと思います。

塾における人間教育のアプローチはいくつも手段があると思いますが、
その一つが「塾長や講師が、正しい大人としての姿(背中)を見せる」ではないでしょうか。

キャリア教育的な意味も含めて「こんな大人になりたい」と思ってもらえるよう、
率先垂範して「かっこいい大人」の姿を見せるわけですね。

読者のみなさんの中にも、自身がそうして塾の先生に憧れて、
いまは塾経営者になったという人もいるはずです。

ところが先日、ちょっと気になるニュース(調査結果)を目にしました。

日本財団が定期的に行っている「18歳意識調査」で、
「価値観・教育(地域間比較調査)」をテーマに調べた結果です。

<18歳意識調査 「第67回 -価値観・教育(地域間比較調査)-」 報告書>
https://www.nippon-foundation.or.jp/wp-content/uploads/2024/12/new_pr_20250106_03.pdf

この中で「自身のキャリアや進路をイメージする上で、目安や参考となる人」
を尋ねた質問があったのですが、私が気になったのはそこ。

ほとんどの都道府県で1位となった回答は何だと思われますか?

答えは「特にいない」です。

都道府県によって多少のばらつきはありますが、おおむね4割前後がそう答えていました。

調査では「なぜいないのか」までは踏み込んでいませんので、
理由については仮説として考えるしかありませんが、
「自分もあのようになりたい」というロールモデルがそもそも身近にいないのかもしれません。

仮にそうだとすると、この傾向は非常に由々しき問題だと思います。

上述したような「背中を見せられる大人」がいないか、
見せているけど子どもたちには響いていないということなのですから。

以前から、教育の地域格差という観点で、
地方はこのロールモデルが少ないことも問題だと指摘されてきました。

子どもたちが日常的に接する地元の大人たちは、親か先生くらいしかおらず、
職業選択も第一次産業か公務員、介護職、医療職などのエッセンシャルワーカーばかりで、
子どもたちにとってはそれが世界のすべて。

もちろんそれらの職業を否定するものではありませんが、
自然と、「自分もその中から将来の職業を選ぶもの」だと刷り込まれているという見方です。

キラキラした職業は、どこか遠くの、
自分には関係のない人たちが就くものだと思い込まされているわけですね。

しかし調査結果を見ると、大都市圏でもほとんど1位は「特にいない」となっています。

だとすると、単に選択肢が多く示されていればそれで良いというわけではなく、
もっと属人的なコミュニケーションや、日々の関係構築のあり方について
見直しが求められているのかもしれません。

続いて2位が「保護者」。

トップ2は、どの都道府県も「いない」か「保護者」のどちらかで、
教育関係者で言えば、ようやく3位で「学校の先生」が出てくる都道府県がある感じです。

3位では、そのほか「きょうだい」「リアルでの友人・知人」「インフルエンサー・YouTuber」
という答えもありました

では、塾の先生に絞って見てみるとどうでしょうか。

「塾の先生」がトップ3にランクインした都道府県は残念ながら皆無でした。

唯一、愛知県の5位に「塾・習い事等の先生」が入っているだけで、
他の都道府県では完全にランキング外です。

中学生の通塾率は全国平均で約7割であると言われ、
これだけ子どもたちの日常に「近い存在」であるはずの「塾の先生」は
悲しいかな子どもたちのキャリア選択にさほど影響を与えられていないということになります。

当人はそこに熱意を持っているのだとすると、余計に皮肉な結果と言えるかもしれません。

一方で、そこは割り切って、ビジネスライクに
「成績向上・志望校合格」と対価を取引することに徹するという考え方もあるでしょう。

そもそも、塾に人間教育など求めていないというご家庭もあるはずです。

でも「黙って成績さえ上げてくれればいいのよ」と言われてしまうと、
何だかモヤモヤしますし、ちょっと悲しいですよね。

いずれにせよ、成績向上や志望校合格のように、
目に見えた形で結果が出にくいのが人間教育です。

そして、結果として見えにくいからこそ、「やったつもり」になりがちだとも言えます。

今回の調査結果は、それを表したものだと言えるかもしれません。
もちろん私も含めてですが、襟もとを正したいところです。

結果が見えにくい教育ほど、自己満足に陥らないことが大事なのだと思います。

【今回のまとめ】
・子どもたちのキャリア選択において「参考になる人はいない」がトップ
・自己満足にならないよう、きちんと「教育」が届けられているか、自問を続けよう

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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