【Vol.889(2025.04.18)】万博参加見送りから考える、塾の課外活動と説明責任

いよいよ大阪・関西万博が開幕しましたね。

何のかんのと賛否両論が飛び交っている中ですが、
否定的な意見の一つとして取り上げられているのが、
全国の学校で「参加見送り」の動きが相次いでいるという報道です。

<万博無料招待に大阪市内の小中学校1割参加せず>
https://news.yahoo.co.jp/articles/6144503e13c26680cc24d5f263749237c339ace5

リンク先の記事にもあるように、見送りの理由はさまざま。

長時間の移動、熱中症リスク、治安、保護者の理解、引率教員の負担……。

いずれももっともな意見であり、
子どもの安全を第一に考える教育機関の姿勢としては理解できます。

しかし、ちょっと角度を変えて考えてみると、
こうした学校の姿勢は塾経営においても非常に勉強になる事例だと感じました。

私たちは「行かない理由」に慣れすぎてはいないかという点です。

教育機関としての立場を考えたとき、
「なぜ行かないのか」はいくらでも理由を並べることはできます。

では逆に「なぜ行くのか」「何を学ばせたいのか」という理由を言語化してきたでしょうか。

実際のところ学校の立場で考えれば、国や自治体から「行きなさい(行かせてあげます)」と
押し付けられているように感じる部分があるのは否めないでしょう。

「別に行く理由はないけど、行けと言われたから」というマインドが根底にあり、
「行かないこと」を前提に思考がスタートしている面はないでしょうか。

もちろん「行かない」という判断が悪いわけではありません。

ただ「行かない理由」と同時に「行く価値(理由)」もきちんと考え、
比較した上で判断することが大事だと思うのです。

そしてそれは、学校に限った話ではありません。
個別指導塾を経営する立場であっても、同じようなことが言えるのではないかと考えます。

例えば個別指導塾でも、理科実験教室や地元企業・大学とのコラボ学習、
社会見学、自然体験など、教室外での“体験学習”を取り入れるケースはよく見られます。

勉強合宿の類もここに含んでよいかもしれません。

そして、それらの実施には必ずリスクが伴うのもご存じのとおりです。

事故やトラブル、予期せぬ天候、子どもの体調不良など、
何かあれば「なぜそんなことをやったのか」と問われる可能性があります。

だからこそ、塾には「行く意義を語れる力」が必要なのではないでしょうか。

例えばアメリカの有名な教育哲学者・ジョン=デューイは
「教育とは経験の再構成である」と述べています。

知識をただ教室で伝えるだけではなく、子どもたちが体験し、考え、つながりを感じることで
初めて“生きた学び”になるという考え方です。

また、同じくアメリカの教育学者であるデービッド=コルブの「体験学習モデル」でも、
学びは単なる情報の受け取りではなく、
「経験→内省→概念化→実践」という循環のなかで深まっていくとされています。

言い換えれば、体験のない学びは、定着しづらく、行動にもつながりにくいということです。

塾が「実際に見に行こう」「体験してみよう」という企画を考えるとき、
それは単なるイベントではありません。

記憶に残り、学びの根を深くするための方法論なのであり、
だからこそリスクがあったとしても実行する価値があるし、
保護者さんや生徒さんにも「行く理由」を堂々と説明できるのではないでしょうか。

「いやー、やりたいけどリスクがなあ……」「保護者さんの賛同が得られるか……」と
二の足を踏んでしまう気持ちはよく分かりますが、
それはこの「行く理由」を塾長が自分の中で言語化できていない可能性があるのです。

どれほど意義のある活動であっても、
それが保護者さんや生徒さんに伝わっていなければ、信頼には繋がりません。

むしろ、「なぜ今こんなことを?」と疑念や不安を招くことさえあるでしょう。

だからこそ、「なぜやるのか」「どんな力が育つのか」を、
事前に丁寧に言語化して共有する努力が求められます。

加えて、活動後にも「どんな発見があったか」「どんな学びにつながったか」を
生徒自身が振り返る場を設けると、家庭でもその価値を共有しやすくなります。

まさに、コルブが説いた「内省」の部分であり、
「体験を学びに変える」ための重要なプロセスです。

体験イベントとは異なりますが、弊塾では受験生に対して
週の通塾回数などのルールを厳しく課しています。

それに当たっても「なぜそうするのか」は事前の面談でしっかり説明していますし、
納得(同意)できないなら転塾もやむなしという毅然とした態度で臨んでいます。

それだけ、私や教室長の中で
「なぜそのルールが必要なのか」が言語化されているからだと自負しています。

もっと言えば「教材選定」にも同じことが言えるのではないでしょうか。

仮に保護者さんに「なぜこのテキストなの?」と聞かれたとして
明確に答えられるかどうか、ということです。

そう考えると、説明責任は信頼をつくるチャンスでもあると言えるかもしれません。

塾が外部で学ぶ機会を提供することは、
リスクがあるからこそ意義を明確に語る力が求められます。

大阪万博への参加見送りという報道は、
学校がその説明責任を十分に果たしきれない状況を象徴していると言えるでしょう。
(もちろん、学校や先生が悪いと言いたいのではありません)

私たち塾経営者は、この事例から「やらない理由」を並べるのではなく、
「やる理由」をどう誠実に伝えるかを学ぶべきではないでしょうか。

説明責任とは、面倒な義務ではありません。
繰り返しになりますが、むしろ保護者さんとの信頼を築くチャンスなのです。

行かない・やらないという選択が悪いわけではありません。

しかし、それでも「行く・やる」ことを選ぶなら、
その「意味」を誠実に語れる塾でありたいですね。

【今回のまとめ】
・「やる理由や価値」をきちんと言語化できているか
・説明責任は、信頼を築くチャンス

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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