【Vol.941(2025.09.26)】「先生のトレカ」に学ぶ、講師ブランディングのあり方

先日、東京の私立学校が「先生のトレーディングカード」を制作したというニュースが
大きな話題になりました。

<教師の魅力をゲーム感覚で発信――聖ヶ丘中高のユニーク広報>
https://predge.jp/326616/

いくら私学とはいえ、ずいぶん思い切ったチャレンジだなと思いますし、
これにGOサインを出した幹部陣の柔軟な理解力にも頭が下がります。

また、塾を含む教育機関にとって
講師(先生)を前面に押し出すことには賛否がつきまといます。

「主役は生徒であるべきで、先生が目立ちすぎるのはどうなのか」という意見もあるからです。

しかし一方で、この取り組みは「講師をどうブランディングすべきか」という点で
私たち塾にとっても大きなヒントを示してくれています。

個別指導塾において、講師の存在はブランドそのものです。
講師の印象が塾の価値を高める場合もあれば、その逆もあります。

つまり、講師のブランディングは単なる「目立たせるか否か」の二択ではなく、
「どういう距離感を築くか」の問題なのではないでしょうか。

教育の歴史を振り返ると、教師はしばしば「権威」として位置づけられてきました。

黒板の前に立つ教師が唯一の知識源で、
生徒はそれを「教えてもらう」立場であるという構図です。

予備校のカリスマ先生のブランディングは、こちらに近いと思います。

しかし、個別指導塾において講師を過度に権威化してしまうのはしっくりきませんよね。

多くの場合、講師は大学生のアルバイトですし、
個別指導塾が大切にすべき「質問しやすい空気」や「寄り添ってくれる姿勢」が
損なわれる危険もあるでしょう。

一方、近年の教育心理学では「教師と生徒の親近感」が
学習意欲を高めることが数多く報告されているそうです。

教師(講師)が笑顔やアイコンタクト、ユーモアを通じて心理的距離を縮めると、
学習者のモチベーションや授業評価が向上することが明らかになっています。

この「親近感型ブランディング」は、講師を“偶像”にするのではなく、
「人としての顔」を見せるアプローチです。

今回の先生トレカの取り組みも
「先生も一人のキャラクターであり、親しみやすい存在として認知してほしい」という
狙いがあると解釈できます。

塾に置き換えるなら、講師の趣味や学びの過程、
ちょっとした失敗談などを適度に共有することで、
生徒さんは「この先生も同じ人間なんだ」と感じやすくなるのです。

とにかく注意したいのは、
講師のブランディング=「英雄化」や「アイドル化」ではないということです。

教育現場の主役はあくまで生徒であり、講師がスターになってしまうと本末転倒です。

むしろ、ブランディングのゴールは
「講師が自分を前面に出さずとも、生徒の学習を支えやすい関係性を築くこと」と
定義したほうが健全でしょう。

マーケティングの分野でも「人間らしさ」がブランドに信頼を与えるとされています。

研究によれば、消費者は「誠実さ」「親しみやすさ」を感じるブランドに
強く惹かれる傾向があるのだそう。

塾経営における講師ブランディングも同様で、
「この先生なら安心して質問できる」「失敗しても受け止めてくれる」と感じられることが、
塾のブランドを長期的に強化してくれると思います。

学生講師ではなく、高い専門性やプロの技術を持つ専任講師を擁し、
それをウリにしている塾さんもありますので、
その場合は権威化もブランディングにはなるでしょう。

自塾のスタイルとどちらが合うかですね。

では、仮に「親近感重視のブランディング」を実現したいのであれば、
どのような取り組みが考えられるでしょうか。

以下にいくつかの方向性を挙げますので、一緒に考えてみましょう。

1.講師紹介の刷新
HPやパンフレットの講師紹介では、学歴や実績だけでなく
「好きな科目」「最近ハマっていること」「学生時代に苦手だった教科」など、
人間的な要素を意識的に盛り込むとよいかもしれません。
これにより、生徒は「完璧な人」ではなく「共感できる人」として講師を捉えやすくなります。

2.コミュニケーション研修
みなさんの教室でも、何らかの講師研修は実施していると思いますが、
「親しみやすさ」を感じさせる言動を学ぶのもよいかもしれません。
例えば、うなずきや相づち、名前を呼ぶなどの行動を意識できるようになるだけでも、
生徒さんの心理的な距離感は大きく縮まります。

3.失敗談や努力の共有
例えば授業の合間に「自分も英語のリスニングが苦手で、こんな工夫をして克服した」
といった話をすることで、生徒さんも「努力すれば自分もできるかも」と学びます。
塾講師というのは基本的に高学歴な人材が多いので、学習アドバイスをしても
「先生はもともと頭がいいからできるんだよ」と内心で感じている生徒さんもいるでしょう。
そうじゃないんだ、と伝わるだけでも親近感はかなり違います。

講師のブランディングを考える際、重要なのは
「講師が目立つこと」ではなく「講師をどういう存在として生徒さんに感じてもらうか」です。

権威的な存在にするのか、親しみやすく、時には弱さを見せながら
伴走してくれる存在にするのか。

私たちが本当に学ぶべきは「先生をトレカにしたことそのもの」ではなく、
「講師をどうすれば生徒さんにとって身近な存在にできるか」という視点ではないでしょうか。

【今回のまとめ】
・講師のブランディングが塾のブランディングにもなる
・権威的な講師にするか、親しみやすい講師にするかは自塾のスタイルで

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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