【Vol.714(2023.08.04)】塾における「ポジティブリスト」を考える

先日、私自身も思わず考え込まざるを得ない、こんなニュースを目にしました。

<「博打が過ぎる」島根県・丸山知事が国の学習指導要領に苦言>
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/574391

要約するとこんな感じです。

・現在の学習指導要領は、あれもこれもと盛り込みすぎ
・そのせいで教育現場は疲弊し、教員不足にも多分に影響を与えている
・文科省は現在の姿勢を改めるべきではないか

例えば「知識だけではダメだから自分の頭で考える教育をやりましょう」、
「小学校から英語を学びましょう」「プログラミングができるようになりましょう」などなど……

中教審で熟議を重ねた上で決定していることには一定の理解を示しつつも、
“お上”が次々と勝手に決めては、「はい、これをやってね」という指示が下りてくる一方なのは
いかがなものかという指摘です。

コロナ下で急速にオンライン対応が進んだことについても、
あたかも「リモート授業ができて当然」と言わんばかりの姿勢で
リモート未経験の教員にまでそれを求めてきた、と憤りを隠しません。

確かに、コロナ下でのリモート以降などは塾でも苦労しましたよね。

私たちは民間事業者であり、中小規模の塾でもありますから、
「やれ」と言われたからやるのではなく「やらなければ明日はない」くらいの危機感を持って
即断即決で臨んできました。

そこから考えると「つべこべ言わずやればいいんだよ!」と思われるかもしれませんが、
学校(特に公立校)の現場の先生方の難しいところは、そのような決裁権がないことです。

よしんば個々の先生方がリモート授業をやろうと思っても、自治体や法人、あるいは国から
「こうやりなさい」「機器はこれを使いなさい」と勝手に決められます。

非常にストレスがたまる環境であったろうと思います。

こうした、次々と新しいことを盛り込もうとする文科省のスタンスについて同知事は、
「博打が過ぎる」「壮大な実験」などと、歯に衣着せぬ表現で舌鋒鋭く批判しています。

知事の意見にはさまざまな解釈があるとは思いますが、
私も教育の末端に関わる一員として、知事の言うことには一理あると思いました。

塾業界でも、例えば「○○ラーニング」や「◆◆勉強法」、「××メソッド」など、
いろんな「勉強」が表れては積み重なっていきます。

キャリア教育や探究学習など、
いわゆる教科学習以外の学びに力を入れる塾さんも増えてきました。

それは良いとしても、これを文科省と学校の関係と同様に考えるなら、
塾(という組織、あるいは塾長という個人)が、これをやれと勝手に決めたことを
現場に下ろしていると言えなくもありません。

組織人である以上、社員や講師たちは一生懸命それに合わせてくれるでしょうが、
これが過度になっては、彼らはもちろん、生徒さんたちも大変でしょう。

経営者は得てして、新しいものが好きでチャレンジ精神旺盛な方が多いもの。
面白そうな教材や、期待できそうな学習法を見つけると「よし、やってみよう」となりがちです。

それは経営者として大切なことだとは思いますが、
部下たちにオーバーワークを強いていないか、
朝令暮改のようになって振り回したり混乱させたりしていないか、
客観的な視点は持っておきたいところです。

このように、良さげな学習(教材や方法論)に対して
「あれもやろう!」「これもやろう!」という考え方を「ポジティブリスト」と呼ぶそうです。

前述のように、そのポジティブな姿勢自体は良いのですが、
逆の発送も心のどこかに留め置いておきましょう。

つまり「何をやるか」ではなく「何をやらないか」です。

例えば、対面授業に強いこだわりを持ち「うちはオンライン授業はやりません」とか、
高校受験に特化し「小学生や高校生の募集は行いません」とか。

学校のように上から(しかも次々と)決められるのではなく、
自分たちで判断できるのが塾の強みですよね。

だからこそ「やらないこと」を決めるのは大事だと思うのです。

それが塾の個性やストロングポイントを作ることにもなるはずです。

貴塾では、何をやり、何をやらないと決めますか?

【今回のまとめ】
・新しいことを次々と現場に下ろしすぎていないか、振り返りを
・やることだけでなく、やらないことも考える

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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