【Vol.843(2024.11.06)】データを正しく読み取る

毎年の恒例となっている、文科省の「問題行動・不登校調査」の結果が発表されました。

<不登校の小中学生、34万人で過去最多 3割超「やる気出ない」文科省>
https://news.yahoo.co.jp/articles/90c23bd3590e985f4c4222fd7b6a5e0075a1d4a9

不登校は毎年過去最高を更新し続けており、特にコロナ禍による一斉休校以降は
爆発的に伸びているといって良い状況です。

コロナ休校で「学校へ行かない」という行為が特別なことではなくなり、
「不登校=悪いこと」という社会認識が変わってきたことも影響していると言われます。

いじめの認知件数も昨年度比で増えているようです。

こうした数値の情報を見ると、心が痛むのはみな同じでしょう。

しかし、数字をそのまま受けとめて
「増えた、減った」と一喜一憂するだけではいけないという指摘もあります。

なぜなら「数字」だけでなく「数字の見方」が大事だからです。

今回のテーマは、塾の経営に直接関係するものではないかもしれませんが、
少なからず教育に携わる者として知っておきたい「数字の見方」のお話です。

現代の子どもたちを取り巻く現状を正しく把握するためにも、一緒に考えてみましょう。

例えば先述した「いじめの認知件数が増えている」という件ですが、
「認知件数」と「発生件数」は違います。

これがどういう意味を持つか、正しく知っておきたいところです。

まず「認知件数」とは、学校が把握したいじめの数です。

つまり、学校が把握できていない隠れたいじめも含めると、
実数はもっと多いということになります。

また、実は平成の中ごろまで、いじめは「発生件数」と称してカウントされていました。
つまり、実際にいじめが発生した(とされる)数値です。

学校や教育委員会としては「発生件数」が少ないに越したことはありません。
場合によっては、学校の評価にも関わります。

そのため「隠ぺい」「保身」とまでは言わなくとも、
積極的に「発生件数」としてカウントしない傾向が見られたことから、
これではいかんと、「認知件数」という概念でカウントするようになったのです。

認知件数は、学校が「いじめを発見した数」とも言い換えることができるため、
そういう意味では「認知件数」が増えたということは、
見落とされていたかもしれないいじめを見つけたと表現することもできます。

学校や自治体が、頑張っていじめを発見しようとした結果である可能性もあるということです。

もちろん、いじめそのものは良くないことですから
認知件数が増えることを素直に喜んではいけないのですが、
必ずしも「認知件数の増加」=「いじめの増加」ではないことは理解しておく必要があります。

不登校のデータについても、気を付けなければいけません。

特に今年から大きく変わったのが、不登校の要因に関する調査方法です。

以前は、学校(先生)が不登校の要因として認識したものを回答・集計していましたが、
学校側が子どもたちに対して「把握した事実」を回答・集計する方法に変えたのです。

極端な言い方をすれば、これまでは学校側の主観だけで
不登校の要因をカウントしていたものを、
ちゃんと子どもたち本人の声を聞いて判断するやり方に変わったことということです。

そのきっかけとなったのは、従来の問題行動・不登校調査とは別に
子ども自身への調査を行ったところ、
学校側の認識と子ども本人の認識と間に、実際に大きな乖離があったからだそう。

例えば「教職員への反抗・反発」を要因に挙げている先生は3.5%でしたが、
子どもたち本人は35.9%、保護者は44.7%と答えていたのです。

「不安・抑うつの訴え」でも、先生が19.0%だったのに対し、
子どもは76.5%、保護者は78.4%でした。

いじめの件と同様、データの表面的な部分だけで
読み取ってはいけないことがよく分かります。

これらの結果や調査方法の変化は、
私たちも普段子どもたちと接する上で意識したい要素ではないでしょうか。

塾を経営していると、やる気がある子、やる気がない子、
まじめな子、怠けぐせがある子、集中力が高い子、気分が散漫になる子、
危機感のある子、ない子……さまざまな生徒さんたちに出会うでしょう。

しかし、それらは「私たち大人から見るとそう見える」という
主観である可能性を否定できません。

つまり、こちらの勝手な印象でレッテル貼りをしているかもしれないということです。

やる気がなさそうに見えるあの生徒さんは、本当にやる気がないのでしょうか。
危機感がなさそう見えるあの生徒さんは、本当に危機感がないのでしょうか。

仮に本当にそうだったとして、
その原因をこちらの勝手な分析で決めつけていないでしょうか。

やはり、「子どもたちの声を聴く」、真に「子どもたちの立場で考える」ことは
欠かせないと思います。

特に、ベテランになればなるほど、自分の経験則に頼りすぎてしまい
無意識に「こうだ」と決めつけて生徒さんに接してしまうことってあると思います。

生徒さんの個性や性格、傾向についてある程度のタイプ分類ができるのは事実ですが、
生徒さんは一人ひとり異なる「個」であることも忘れずにいたいですね。

【今回のまとめ】
・データは数値だけでなく、調査方法や前提とセットで考える
・大人の見立てと、子ども本人が考えていることは違う場合が多い

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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