先ごろ、ベネッセさんが「生成AI×教育」の展望について
記者説明会を開催されたそうです。
<教育現場で進む生成AIの活用、注意点は? ベネッセが語る「教育×生成AI>
https://www.mapion.co.jp/news/column/cobs2846017-1-all/
説明会では、これまで約2年にわたって同社が実践してきた生成AI活用について、
その事例紹介や今後の可能性、課題などが語られたとのこと。
生成AIの活用については、教育現場でも家庭でもいまだ賛否が分かれているそうですが、
個人的には、遅かれ早かれ「積極的に使う」方向に進むのではないかと思っています。
なぜなら、一つの技術としてそこに生成AIが存在している以上、
もはやそれに蓋をして「ないふりをする」ことはできないからです。
加えて(使い方にもよりますが)それが教育や学習にも有益な効果があるのなら、
使わないでいることのほうが難しいと思うんですよね。
少し極端な例ですが、紙のノートが発明される以前、
記述媒体はパピルスや木簡や羊皮紙だったわけです。
鉛筆が発明される以前は、黒鉛に紐を巻き付けた筆記具を使っていました。
しかし時代が進み、誰もがノートと鉛筆を使える状況にあるのに、
まるでそれらが存在しないかのように、
あえて不便な旧時代の筆記具を使うほうが不自然なのです。
自ら進化を拒んでいるとも言えます。
古いものを大切にすることや、歴史や文化を学ぶ大切さは理解しますが、
それとはまた違う次元の話です。
実際、ICTが教育に導入され始めたときもそうでしたよね。
「ICTなんてけしからん!」というICT反対派の意見はかなり強くありましたが、
あっという間に「ICTを使うか否か」というレベルで議論する時期は過ぎ去り、
「ICTをどう使うか」が論点になっています。
探究学習も同じです。
「授業はトーク&チョークが基本!」という考えから、
より能動的な学びのスタイルを重視するようにもなってきました。
つまり、個人の教育観やこだわりを守ることも大事ですが、
だからと言って、時代の変化を否定したり目を背けたりするばかりでなく、
「いかに取り入れていくか」という姿勢は持っておいたほうが良いということです。
特に民間の事業体である塾は、このあたりの柔軟性が強く求められると思います。
そんな中で、今回のベネッセさんの実践発表の中で、気になるコメントがありました。
リンク先の記事では言及されていませんが、
同社イノベーションセンターの主任研究員である庄子寛之氏が
「生成AIの出現によって、従来の『良い教師像』は転換していくだろう」
と述べられたのだそうです。
例えば生成AIは、一定の正解があるものならば、ものの数秒で答えを提示してくれます。
以前は、そうした「答えを教える」「解き方を教える」という仕事を担っていたのが、
学校や塾の先生でした。
そして「良い教師(塾の先生も含む)」の定義とは、
それらを分かりやすく教えてくれる先生だったのです。
事実、愛知教育大学などによる調査でも、
小中学生が「尊敬する先生」の第1位は「分かりやすく教えてくれる先生」でした。
ジブラルタ生命が教員を対象に実施した「理想の教師像」に関するアンケートでも、
やはり1位は「授業が分かりやすい」だったという結果が出ています。
子どもたちも先生も、それこそが「良い教師」の1番の条件だと思っていたということです。
生成AIは、おそらくその理想像を変えていきます。
庄子氏によると「ティーチャーではなくファシリテーター」としての機能が
より重視されるようになっていくだろうとのこと。
これは、まさに塾講師(授業を受け持たない塾長や教室長も含む)に
求められる人材的素養も変わってくるということです。
これまで塾講師という職業は、やはり「教えたい」という気持ちの強い人や、
教えるのが上手な人が就く仕事だったと思います。
しかしおそらく今後は、それよりも生徒さんに寄り添う力や、
モチベーションを高める力のほうが、塾講師としても大事な能力になってくるのでしょう。
もちろん今でもそれらは大事ですが、今後はもっと重要になるかも、ということですね。
今でこそ、講師自身の学力はとても大事です。
自分が分かっていないことを人には教えられませんので、当然と言えば当然だと言えます。
でももし、その部分をAIが担えるとしたら、
人材の採用基準や、育成(研修)の力点も変わってくるかもしれませんね。
考えてみれば、プロスポーツの名監督や名コーチが、
必ずしも選手時代に華々しい成績を残しているわけではありません。
それと同じように「勉強を教える人は、勉強が得意である」という
基本的な概念さえ変えてしまう可能性もあります。
いずれにせよ、私たちが今持っている技術や常識は、
いつまでもそれがスタンダードであり続けるとは限りません。
年末も押し迫り、今年の反省や来年の目標を考えるにはいい時期です。
単に「塾で生成AIをどう使うか」だけでなく、
それが業界全体に及ぼす影響まで俯瞰しながら、
来年以降の教室運営に思いを巡らせてみませんか?
そう考えると、わくわくするような、ぞっとするような……(笑)。
一緒に頑張っていきましょう!
【今回のまとめ】
・生成AIが塾講師に求められる資質を変えるかも
・理念やこだわりは大事だが、時代に合わせて変化する意識も持とう