【Vol.669(2023.03.01)】「はだしのゲン」は教材としてふさわしくない!?

今回は、塾の運営やノウハウとは直接関係はないのですが、
子どもたちの教育の末端に関わる者として、ぜひ考えてみたいニュースを取りあげてみました。

広島市教委が、同市内の小学校で実施している「平和教育プログラム」の教材から
漫画「はだしのゲン」を削除する方向を示したことが話題となっているようです。

<「はだしのゲン」教材掲載取りやめ 被爆者団体など撤回求める>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230221/k10013987331000.html

「はだしのゲン」は、原爆や戦争の悲惨さ、荒野となった広島の町で
たくましく成長する主人公・ゲンたちの姿を描いた名作で、
平和教材としても高い評価を受けています。

おそらく、誰もが1度は読んだことがあるのではないでしょうか。

それがこのたび教材から削除の方向が示されたことで、
各方面から賛否両論が飛び交っている状態なのです。

削除の理由について広島市教委は、このように説明しています。

「作品そのものに問題はなかったが、教材としての課題があったため」。

例えば教材では、ゲンが、家計を助けるために学校をさぼって路上で浪曲を歌うシーンや、
病気の母を助けるために栄養を与えようと、池の鯉を盗むシーンが抜粋されています。

これが「浪曲は現代の児童の生活実態からは理解しにくい」
「鯉を盗むのは窃盗であり、それが是認されるかのような誤解を与える」という
現場からの要望があったからだそうです。

このように一部を切り取った扱いでは、なぜゲンがそうするに至ったのか、
その背景や状況を補助的に説明する必要があります。

限られた授業時間内でそれを行うのは難しく、
したがって「教材として課題がある」という判断をしたとのこと。

代わって2023年度からの教材では、被爆体験の聞き取りをもとに構成したものに
置き換える方向を示しています。

確かに、教材として扱いにくいのであれば
より適切なものに差し替えるのは妥当な判断であると思います。

しかし「はだしのゲン」は、総発行部数1000万部を超えるベストセラー。

アニメやミュージカルにもなったり、
核拡散防止条約の委員会で英訳版が配布されたりしたこともあるほどの名作です。

ある意味で日本人、もしかしたら世界の必読書と言ってもいいかもしれません。

切り取ったシーンの解説が難しいのであれば、
ほかのシーンを使うという手段もあったはずです。

それを全面的に削除という極端な方法を取ったことが、
「臭い物には蓋をするかのようで、いかにもお役所的だ」という非難の声も上がっています。

「はだしのゲン」をめぐっては、以前もその描写をめぐって
学校の図書室などから閉架する騒動が起こりましたね。

グロテスクなシーンや、現在は差別用語となっている言葉が使われているため、
「子どもに見せるにはふさわしくない」というクレームが多発したためです。

確かに残酷なシーンも多いですし、当メルマガ読者のみなさんの中にも、
子ども心にトラウマになったという人がいらっしゃるのではないでしょうか。

結局このときの騒動は、のちに撤回されることで収まりました。

しかし、戦争や(核兵器の被害)を描いたシーンがグロテスクだから、
あるいは今回のように「説明しにくいから」という理由で、
それを子どもたちに「見せない」という判断は、教育的にはどうなんでしょうかね?

ショックを受けるほどのシーンだからこそ、心に深く刻まれ、
戦争や核兵器の恐ろしさがちゃんと伝わるのだと考えることもできます。

口頭で「戦争はダメだよ~」と言うより、何倍も効果的です。

教材に使われることで、作品全編を読んでみるきっかけにもなるでしょう。

本来、そうやって子どもの可能性や選択肢、価値観を広げていくのが
教育の根本的主旨だったはずです。

そこから考えると、個人的には、
今回の対応はやはり少し拙速ではなかったかという気がします。

転じて、塾ではどうでしょうか。

教材選びにおいて、今回のような難しいケースが発生することは想像しにくいですが、
大人の都合、あるいは価値観で勝手に判断したルールを押し付け、
子どもが世界を広げる機会を意図せず奪っていることがあるかもしれません。

先日「MARCH」「関関同立」などというくくりで大学を説明するのはどうなのか、
という内容の記事をお届けしましたが、それも大人都合で決めた分類を子どもに押し付け、
好ましくない進路選びの価値観を植え付けているとも言えます。

あるいは(一概にそれを否定するのもまた極論だと思うのですが)、
教室でのスマホ使用を禁止している塾さんも多いと思いますが、
「時代に即してない」「禁止ではなくTPOを教えるべきだ」という耳の痛い指摘もあります。

できること、できないことはあると思いますが、判断に迷ったときは
「それは教育的行為としてふさわしいか」「子どもたちの利益になっているか」
をいつも念頭において考えてみたいところですね。

【今回のまとめ】
・大人の都合やルールで子どもたちの権利や可能性を奪わない
・迷ったら教育の原点に立ち返って考える

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安多 秀司 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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