【Vol.718(2023.08.18)】仕事は生活のため

国立青少年教育機構の調べで、日本の高校生は諸学国(米・中・韓)と比べ、
「働くこと(仕事)」に対して消極的なイメージを持っていることが分かりました。

<高校生の進路と職業意識に関する調査-日本・米国・中国・韓国の比較->
https://www.niye.go.jp/files/items/8939/File/houkokusho20230622.pdf

特に顕著だったのは、仕事のイメージに対する質問で
「生活のため」と答えた日本の高校生は
「とてもそう思う」が68.6%、「まあそう思う」が27.8%だったこと。

あわせて96.4%もの高校生が「仕事は生活のため」という認識であり、
諸外国と比べてもダントツで高い数字を示しています。

ちなみに、アメリカは45.8%、中国は64.5%、韓国は62.8%でした。

もう一つ注目したいのは、生活に対する意識調査です。

「暮らしていける収入があればのんびりと暮らしていきたい」としたのは84.5%、
「仕事よりも、自分の趣味や自由な時間を大切にしたい」としてのは84.7%と、
こちらも諸外国を抑えてトップだったこと。

これらの結果だけを見ると、日本の高校生は「仕事」「働くこと」に対して
あまり積極的なイメージを持っていないのではないかと推察できます。

そして、このような結果を見ると私たち大人の多くは
「嘆かわしい」という感想を抱くのではないでしょうか。

「もっと仕事に情熱を持ってほしい!」と思う人もいれば
「そんな甘い考えで社会人が務まるか!」と思う人もいるでしょう。

特に叩き上げ型の経営者の方であれば、
一般のサラリーマンの方よりも、余計にそう感じるのではないかと思います。

しかし、少し冷静になって考えてみましょう。

「仕事は生活のため」と思うこと自体は、悪いわけではありません。

ガンガン稼ぐことよりも、身の丈に合った自由な生活を楽しみたいと考えるのも
別に否定されることではありません。

つまり、私たちは私たちの価値観で「これはけしからん!」と脊髄反射しがちですが、
あくまでそれは私たちの価値観とは「合わない」だけであって、
「間違っている」とは言えないのです。

そこで気を付けたいのは、塾を経営するうえでも
このスタンスで生徒さんと接していないかということ。

誰もが(すべての生徒さんが)仕事に情熱と上昇志向を持ってガンガン働くことを望んでおり、
だからいま勉強を頑張りましょう、みたいな論理です。

しかし、このデータが正しいのだとすると、
そのアプローチは必ずしも適切とは言えないかもしれません。

その理屈で生徒さんに頑張りを求めても、おそらく響かないからです。

死ぬほど頑張って何かをつかむよりも、
そんなに無理して頑張らなくていい、無理するくらいなら初めからあきらめる、
大きな喜びもなければ深い絶望もない人生を望んでいる子たちも少なくないと思われます。

繰り返しになりますが、それもまた一つの価値観であり否定されるものではありません。

「夢」というキーワードは便利なもので、
悪く言えばそれを“エサ”に子どもたちを勉強に向かわせることはできるでしょう。

ただ最近は、その「夢」を聞かれること自体に食傷気味で
鬱陶しく感じている子どもたちも少なくないようです。

「なぜ自分たちに夢がある前提で接してくるの?」
「まるで夢がないことは悪いことみたい」
「夢が持てない自分は劣っている人間なんだ」

などなど……

個人的には夢はあったほうがいいと思いますが
「夢を持て」と強要するのは違うと思いますし、強要されて抱いた夢など幻想です。

特に塾の先生は情熱型の方が多いですから、
このような傾向は物足りないし面白くないかもしれませんが、
最も優先されるべきは子どもたちの利益です。

少なくとも私たちの考えに子どもたちを染めることではなく、
子どもたちが自分で判断できる材料を提供することだと思います。

今回の調査に携わった筑波大の京免徹雄助教もこの結果について
「必ずしも悪いことではない」と述べられています。

「人生における優先度が働くこと以外にも増えている」
「今の高校生はワークライフバランスについて敏感なのではないか」

と分析しています。

確かに、このような価値観の多様化にこそ、
個別指導塾は適応していくべきではないでしょうか。

そうでなければ、何のための個別指導塾かということになりますし、
学び方だけを個別にカスタマイズすればいいのであればAI教材で十分です。

子どもたちが個別指導塾に何を求めているのかという原点を考えてみてください。

学校や集団塾におけるマスの学び方が合わないから通塾しているわけで、
個別指導塾に来てまで私たちの勝手な価値観を押し付けられてはかわいそうです。

もちろん、運営上の視点から一定のルールは必要ですが、
現代の子どもたちの価値観に合わせた対応も忘れてはならないでしょう。

【今回のまとめ】
・子どもたちは仕事よりも大事なものを持っている世代
・私たちの世代とは価値観が違う

この情報をシェア
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

安多 秀司 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

目次