【Vol.1033(2026.08.14)】「女子は数学が苦手」は本当か

「男子は理系科目が、女子は文系科目が得意」――昔からそのイメージってありますよね。

しかこのたび、非常に興味深い調査結果が明らかになりました。

全国学力テストに関連する調査で、
女子のほうが算数・数学に苦手意識を持つ生徒が多かったにも関わらず、
実際には正答率で男女間に有意な差はなかったというものです。

<理数科目、女子に依然苦手意識=国語は男子の成績上回る―全国学テ>
https://sp.m.jiji.com/article/show/3838059

「できるかどうか」と「自分はできると思っているか」が一致していないのです。

これは、塾にとってかなり重要なデータではないでしょうか。

私たちは普段、生徒さんの学力をテストの点数や正答率で測ります。

80点だった、前回より15点上がった、偏差値が5上がった……
こうした数字は指導の成果を確認するうえで欠かせません。

しかし、その数字だけを見て、「この子は数学が得意になった」と判断してよいのでしょうか。

例えば、数学のテストで80点を取った生徒さんがいたとします。
ところが本人に「数学、得意?」と聞くと、「いや、全然。たまたまです」と答えます。

一方、70点だった別の生徒さんは、
「数学は結構好きです。前より解けるようになりました」と答えました。

どちらの生徒さんが、これから数学に積極的に取り組んでいく可能性が高いでしょうか。

もちろん、この情報だけで判断することはできませんが、
おそらく後者の生徒さんのほうが期待できそうです。

ただ、調査結果からも見られるように、学力と自己認識は、同じものではありません。

教育心理学では、自分にはその課題を達成できるという「自己効力感」が、
その後の行動や努力、困難への向き合い方などに影響するとして知られています。

つまり、「できる」という客観的な状態だけでなく、
「自分はできる」と本人が認識しているかどうかが重要だということです。

そう聞くと私たちは「では、生徒さんに自信を持たせよう!」と思ってしまいますが、
そう単純な話ではないかもしれません。

「点数が上がれば、自信も自然についてくる」とは限らないからです。

例えば、数学が苦手だと言って入塾してきた中学生がいるとします。

最初のテストでは52点でした。
塾で指導を続け、次は64点、その次は73点になりました。

講師としては、「順調に伸びていますね」「もう数学は苦手じゃないですよ」と
声をかけたくなるところですが、本人はそう思っていないかもしれません。

「やらなければいけないから仕方なくやっている」という苦役感や
「点数が上がったのはたまたま」という達成感がないまま、
数学に向き合っている可能性があります。

そこで、「いや、73点取れているんだから得意でしょう」と訂正しても、
あまり意味はありません。

重要なのは「苦手だ」と言っている気持ちに対し、
「どうしてそう思うの?」と聞いてみることではないでしょうか。

すると、「計算はできるけど、文章問題になると自信がない」と返ってくるかもしれません。

あるいは、「クラスにもっとできる子がいるから」と答えるかもしれません。

私たちは、そこにメスを入れるべきではないでしょうか。

私たちが見ている「73点(数学力の客観評価)」と、
生徒さんが見ている「73点(数学力の自己認識)」は、同じものではありません。

だからこそ個別指導塾では、「できているか」だけでなく、
「本人は自分をどう見ているか」を観察する必要があります。

今回の男女差も、ここから考えると興味深い問題です。

文科省は、理数系について「男子のほうが得意」という無意識の思い込みなどが、
意識の違いに影響している可能性を指摘しています。

しかし、そうしたジェンダーバイアスだけに原因を求めることも
いささか短絡的かもしれません。

家庭での声かけ、学校での経験、友人との比較、過去の成功や失敗、本人の性格など、
自己認識にはさまざまな要因が関係すると言われます。

塾にも、その一部を担っている可能性があると認識することが大切です。

例えば、男子生徒が難しい数学の問題を解いたときには、
「やっぱり数学得意だな」と声掛けをする一方で、
女子生徒が同じ問題を解いたときには、「すごいね、頑張ったね」と言う。

どちらも悪意のない言葉ですが、
前者には「あなたは数学ができる人だ」という能力への評価が含まれ、
後者には「頑張ったことへの評価」が含まれています。

こうした日々の小さな言葉の積み重ねが、
「自分は数学が得意な人間なのか」という自己イメージに影響する可能性を
意識しておきたいところです。

「生徒さんをたくさん褒める」のも大切ですが、
生徒さん自身が「自分は何ができるようになったのか」を
発見できるようにすることが重要だと思います。

例えば、以前は連立方程式を解くときに途中で手が止まっていた生徒さんが、
今日は最後まで自力で解けたとか、
以前は文章問題になるとすぐに「分かりません」と言っていた生徒さんが、
今日は図を書いて考えようとしたとか。

こうした変化は、テストの点数には必ずしも表れません。

しかし、「自分は前よりできるようになった」という感覚を形成するうえでは、
非常に重要な経験になる可能性があります。

「数学が得意だね」と外から評価するだけではなく、
「前はできなかったことが、今はできる」という事実を本人に認識させるのです。

これは、「自信を持たせる」ということとは少し違います。

根拠のない自己有用感や自己効力感を与えるのではなく、
本人が自分自身の変化を発見できるようにするのです。

同じ70点でも、その70点がその子にとって何を意味するのかを見ることでもあります。

前回より10点上がった70点なのでしょうか。
90点から下がった70点なのでしょうか。
本人が「やっとここまで来た」と感じている70点なのでしょうか。
それとも「頑張ったのにこれだけしか取れなかった」と落ち込んでいる70点なのでしょうか。

数字は同じでも、教育的な意味は違います。

そして、今回の調査結果が示しているのは、まさにこの「数字の外側」にある部分です。

私たち塾経営者は、どうしても成果を数字で示す必要があります。

保護者さんにとっても、成績向上は重要な価値です。
点数そのものを軽視することはできません。

ただ、「点数が上がった」という成果と、「自分は学べる人間だと思える」という成果は、
別々に存在することを忘れてはいけないと思います。

さらに言えば、「自分はできる」と思わせることが目的なのではなく、
自分の成長を自分で認識し、次の挑戦に向かえる生徒さんを
育てることが大切なのかもしれません。

【今回のまとめ】
・「自分はできない」と思い込んでいる素因にスポットを当てる
・たとえ褒める意図であっても、成果のみで生徒さんを判断するのは危険

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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