先般、全国学力テストの調査結果が公表されましたね。
今年は4年ぶりに理科も実施されました。
<【全国学力テスト2022】中学校、国数理の課題と指導改善ポイント(まとめ)>
https://resemom.jp/article/2022/08/02/68109.html
特に今回注目されていたのは、中学校で新しい学習指導要領が施行されてから
最初の全国学力テストだったこと。
ご存知のように新指導要領では、従来の知識量重視の教育から
思考力・判断力・表現力などのいわゆる非認知能力を伸ばす方向にシフトしてきました。
それがどの程度定着しているのか確認する、非常に重要な機会でもあったわけです。
しかしながら結果としては、まさしくそこに課題が残る形となったようでした。
例えば数学では「箱ひげ図」からデータの特徴を読み取る問題や、
国語では資料から情報を引用して自らの意見を主張する問題、
理科では実験計画の妥当性を考える問題での正答率が低かったそう。
つまり、思考力・判断力・表現力という評価視点では
子どもたちの能力伸長・定着はまだ不十分だということですね。
特に理科は、全教科の中でも唯一正答率が5割を切りました(49.7%)。
文科省も「さすがに5割を切るのは根本的な問題がある」旨の発言をしており、
今後の課題となっていきそうです。
ところで、全国学力テストの結果が公表されるたび、
都道府県別や市町村別でどこがトップだったとか、
どこが低かったといった報道がなされます。
もちろんそれは客観的な事実ですが、
どこかその中に序列や競争のニュアンスが含まれていることには疑問を抱きます。
そもそも「全国学力テスト」という呼び名は通称で、
正式名称は「全国学力・学習状況調査」。
そう、あくまで「調査」なのです。
テストという形で子どもたちの学力の定着度を「調査」し、
結果を見て授業方法やカリキュラムなどを改善することが目的だということを
私たちは忘れてはいけないと思います。
自治体別に結果を調査するのも、
各地の教育委員会が個別に今後の改善点を見出せるようにするためです。
しかし現実には、それを地域ごとの優劣で考える人たちがいます。
○○県の子どもたちは優秀なのに、○○県の子どもたちは勉強ができないとか。
あるいは教員の指導力を比べたりとか。
そういう意味では、各都道府県の塾の力とも解釈しようと思えばできるかもしれませんね。
確かに、先生(や塾)の指導力が子どもたちの学力に反映される部分はあるでしょうが、
やはりそれは指導の改善点を探るポジティブな営みが主旨であるべきで、
決して優劣を競うためのものではありません。
数年前、この全国学力テストの結果をふまえて、
大阪市のとった対応が物議をかもしました。
大阪市は、毎回この結果が芳しくなく、それに業を煮やした市は
「テストの結果を教員の人事評価に反映する」としたのです。
私たち塾の価値観で言えば、子どもたちの成績によって業務が評価されるのは
当たり前だと思う人もいるかもしれません。
しかし、同じ価値観で学校をとらえるのは非常に危険です。
もし、学力テストの結果を学校の先生の評価に反映させれば、
先生方は本人の意思に関係なく、「全国学力テストで(他地域と比べ)好成績を収めること」を
主眼においた指導をせざるを得なくなります。
もっと言えば、自身の人事評価を上げるために、
生徒たちの成績を上げる指導になるということです。
本来、教育の受益者は学習者(子どもたち)であるわけで、
全国学力テストも授業改善が目的なわけですから、これでは本末転倒。
悪い意味で、学校が「塾・予備校化」してしまいます。
識者はこの対応を、完全に一線を超えた「禁じ手」であると指摘しており、
文科省も懸念を示していました。
結果として全国学力テストをもとに人事評価することは見送られましたが、
代わりに大阪府や大阪市独自の学力テストを実施し、
それを人事評価の材料とする方向で落ち着きました。
個人的には「いや、そういうことじゃなくて……」と思いますが。
そう考えると、結果は公表しないほうがいいのではという気もしてきますね。
繰り返しになりますが、私たち塾が生徒さんの成績で評価されるのは当然です。
しかし、自分たちの評価を上げるために生徒さんたちの成績を上げるのか、
成績が上がった結果として自分たちが評価されるのかは、似ているようでぜんぜん違います。
毎年行われる全国学力テストですが、その結果をどうとらえるかは、
私たちの指導への向き合い方も問われているのかもしれませんね。
【今回のまとめ】
・全国学力テストはあくまで「調査」
・子どもの成績を人事評価を結び付ける考え方は危険