【Vol.674(2023.03.17)】いい話だけど、正しくない!?

高知の小学校で行われた防災プログラムの内容が炎上しているようですね。

<津波の際に小学生が高齢者を誘導…ネット炎上の避難訓練、防災課に意図を聞いた>
https://news.yahoo.co.jp/articles/277263280f08f5dea20d91d08d08ea2112e8b6fd

南海トラフ地震が起こった際に大きな被害が予測される高知県の町で、
体力の問題などから避難をためらう(あきらめる)高齢者が少なくないことを受け、
小学生が避難を呼び掛けたり、担架で高齢者を運ぶ訓練をしたりしていた件を受け、
「なぜ子どもにそんな危険なことをやらせるのか」と非難が集中したのです。

本来の町の意図としては、避難訓練さえ参加しようとしない高齢者らに、
「訓練に」参加するよう子どもたちが呼びかけるというものでした。

ところがこれが報道されたとき、多くの視聴者らは
「災害発生時に、子どもたちが高齢者の家を訪問して避難を呼びかける」
と受け止めてしまったようです。

災害発生時には「まずは自分の命を守る」ことが鉄則ですから、
行き違いがあったにせよ、まっとうな反応だと思います。

ここから私たち塾経営者が教訓としたいなと思ったことが二つあります。

一つはメディアリテラシーの問題です。

先述したように、町の意図はあくまで
「高齢者の避難訓練の参加率を上げる」というものでした。

それが、「けしからん!けしからん!」の大騒ぎになってしまったわけですから。

今回は、報道する側に配慮不足があって誤解を招いた部分が大きかったと思いますが、
やはり情報を正しく受け止め、解釈する力は大切です。

ただ、ここで言っているメディアリテラシーの重要性は、
生徒さんだけを指しているのではありません。

私たち塾経営者や教室長、講師にとっても非常に重要です。

例えば今回のような炎上騒動でなくとも、何らかのニュースを受けて
教室で生徒さんと話題にすることもあるでしょう。

そのとき、私たちのメディアリテラシーが足りなければ、浅慮なまま、
さもそれを「正しいこと」であるかのように子どもたちに伝えてしまいかねません。

子どもたちは素直です。

「塾の先生がそう言っていた」と、信じてしまいます。
さらに、それをまたどこかほかの場所で吹聴することもあるでしょう。

しかし、もしそれが間違った情報や判断であった場合
「誰だ、それを子どもたちに吹き込んだのは!」という話になってきます。

いろいろな解釈があって「あくまで個人の意見」として扱うならまだしも、
それが正解だと勘違いさせてしまうのは危険です。

特に、塾の先生は良くも悪くも熱い思いを持っている人が多いので、
それが悪いほうに働けば「自分が正しい!」という価値観の押しつけになりがちです。

こうした点に気をつけないといけません。

次に、当初はこれが「美談」として報じられてしまったことも問題だったと思います。

「避難できない高齢者を子どもたちが助けに行く。なんてすばらしい助け合いなんだ!」
という感動物語に仕立てあげられていた点です。

もちろん、町もメディアもそんなつまりはなかったかもしれません。
しかし問題は、これを美談として受け止めてしまった人もいただろうということです。

それも解釈の一つではあると思いますが、人はこうした感動物語に弱いです。
正しさよりもそれが優先されて、判断能力を失うことがあります。

例えば、自分もお金がないのに誰かにそれを分け与えることは、確かに美しい行いです。
しかし、正誤で判断すればまったく合理的ではありません。

塾では、このあたりの判断も大事になってくると思います。

「どうしてもこの塾に入りたいんです!頑張って勉強したいんです!助けてください」
「でも、我が家は貧しくて月謝が払えないんです……」
と言っている親子がいたとして、どう対応するかということですね。

この親子だけ特例として内緒で受け入れるのもアリかもしれませんし、
毅然と、あるいは泣く泣くお断りするのもひとつの判断です。

また、あとがきでもお伝えしていますが、先輩塾生の事例を後輩に示して
「先輩はこんなに頑張った。だからみんなも頑張ろう!」と励ますことがあるかと思います。

それ自体はいいとしても、もしその事例が
「大好きなおじいちゃんのお葬式にすら出ずに、勉強を頑張った」というものならどうでしょう。

大事なものを後回しにしてでも勉強を頑張ったと受け止めるなら、美談と言えば美談です。

しかしそれを正しいことと定義し、他の生徒さんにも推奨するのは違います。

推奨しないまでも、感化されてそれをマネする生徒さんもいるかもしれない、
ということを意識できるのが大事だと思います。

いかがでしょうか。

塾でも、避難誘導などが必要になるときがあるかもしれません。

いざというとき、生徒さんを助けるためなら
私たちや講師が犠牲になるのは当たり前なのでしょうか。

こうした点も、先ほどの美談と正しい行いと同様、冷静な判断力が必要です。

避難マニュアルなどを作る際には、こうした点も頭に入れておくべきだと思います。

【今回のまとめ】
・まずは私たち大人が正しいメディアリテラシーをつける
・感動の物語と、客観的正しさを分けて判断する視点を持つ

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安多 秀司 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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