【Vol.1023(2026.07.10)】評価だけを追い求めて、理念を忘れることがないように

教育には、評価が必要です。

どの学校が優れた実践を行っているのか。どの取り組みに公的な支援を行うのか、
限られた予算を配分する以上、何らかの評価基準を設けることは避けられません。

今回、文部科学省が進める高校改革事業「グランドデザイン」に基づく
「N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想」の採択結果で、
鳥取県が申請した4つの高校すべてが不採択となったことが話題になりました。

<公立高の教育改革拠点校、鳥取の4校は不採択 教育長「再挑戦する」>
https://www.asahi.com/articles/ASV783VDVV78PUUB006M.html

この事業の財源は国ですが、各都道府県が選んだ地元校を申請して採択されるものです。

農業や工業などの専門学科を強化する「アドバンスド・エッセンシャルワーカー」育成、
理数系人材育成、多様な学びの確保等、3つの類型に分かれて審査され、
選ばれた学校には、地域のフラッグシップ校として多額の予算が投入されます。

かつてない予算規模が組まれており、国はかなり本気であると言えるでしょう。

その一方で、国が「優れた高校」の基準を(勝手に)定義してしまい、
それとは異なる隠れた魅力や存在意義を持つ学校を否定するネガティブなラベリングや、
それによる学校間格差助長、統廃合に向けた材料にされるのではという懸念も出ています。

この観点で見たとき、鳥取県の4校がすべて不採択という結果は、
国が「鳥取県の高校教育レベルは低い」と見なしたのと同義に
受け取る人がいてもおかしくなないでしょう。

もちろん、この採択・不採択の結果について、その是非を論じるつもりはありません。

しかし、塾経営者としては、評価制度には「選ぶ」という役割だけではなく、
「選ばれる側の行動を変える」という作用があることを忘れてはいけないと思います。

教育学には「ウォッシュバック効果」という考え方があるそうです。

もともとは試験研究で使われる概念で、
「評価の方法が、教え方や学び方そのものを変えてしまう現象」を指します。

例えば、大学入試で英語の長文読解ばかりが出題されれば、
高校では長文演習が増えます。

記述式が重視されれば、授業も記述対策へと変わります。

評価は、単に学習成果を測るだけではなく、
「何を学ぶべきか」というメッセージにもなっているのです。

この考え方を今回のニュースに重ねると、学校は、
「どんな教育が必要か」だけでなく「どんな教育なら採択されるか」を考えるようになります。

それ自体は合理的な行動ですが、その動きが積み重なれば、
全国の高校が少しずつ同じ方向を向き始める可能性があります。

国が示した理想像に向けて全国の高校がそれを目指す(目指さざるを得なくなる)、
画一的な教育が促進されるリスクです。

しかし本来、地域ごとに異なる課題や目標があるはずです。

都市部では人口集中や多様な進路への対応が課題かもしれません。

一方で地方では、人口減少や地域産業との連携、
地域コミュニティの維持など、別の教育課題があります。

それにもかかわらず、「採択されやすい教育」が一つのモデルとして広がれば、
それぞれの地域が本当に必要としている教育よりも、
「評価される教育」が優先されることも起こり得ます。

もちろん、実際の審査がそのようになっていると言いたいわけではありません。
評価制度には構造的にそのような力が働くということです。

これは塾業界でも決して他人事ではありません。

例えば、保護者が塾を選ぶ際、「合格実績」を重視する地域では、
多くの塾が合格実績を前面に打ち出します。

「定期テスト対策」が評価される地域では、そのサービスが充実していきます。

口コミサイトで評価されるポイントがあるなら、その項目を意識した運営になるでしょう。

それは市場原理として自然なことですが、
結果として自塾が本来大切にしたかった教育まで変わってしまうとしたら、どうでしょう。

「考える力を育てたい」という理念を掲げながら、
問い合わせを増やすために短期的な点数アップばかりを前面に出すようになる。

生徒一人ひとりの学びを大切にしたいと思いながら、
実績づくりを優先して特定の生徒ばかりに時間をかけるようになる。

――こうした変化のその積み重ねが、
塾の文化そのものを少しずつ変えていくこともあります。

また、考える力や生徒個人の学びを大切にしてほしいご家庭にとっては、
自分たちのニーズに適う塾が地元にないということにもなるでしょう。

生徒さん個人だってそうです。

悲しいかな現実として、多くの子どもたちにとっても、
学ぶ理由はテストや入試の結果に矮小化されています。

評価が優先され、それが動機になるから
「勉強がつまらない」と言う生徒さんが生み出されていくのではないでしょうか。

本質的には、人も組織も評価されることに力を注ぐものです。

塾長個人の理想を追求する教育を提供しても、塾生がいなければ、
単なる趣味や精神修行の世界になってしまうのが現実です。

だからこそ、私たちは「外からの評価」と「自分たちが本当に育てたいもの」を
意識的に区別する必要があると思います。

もちろん、ご家庭の期待に応えることや、
合格実績も定期テストの点数も、生徒さんにとって大切な成果です。

しかし、それだけが塾の価値ではないはず。

学ぶことを好きになる経験や、挑戦できる姿勢、自分で考え自分で決める力などは
ランキングや数字には表れにくい一方で、長い人生では大きな意味を持ちます。

評価制度は、教育をより良くするためにあります。
しかし同時に、その評価制度が教育の方向そのものを変えてしまう力も持っています。

だからこそ、ときどき立ち止まって問い直したいのです。

私たちは、評価されるために教育を変えているのか。
それとも、本当に必要だと思う教育を続けた結果として評価されようとしているのか。

この二つは似ているようで、実は大きく異なります。

評価は大切ですが、評価に教育が従属してしまった瞬間、
教育は少しずつ本来の目的から離れていくかもしれません。

塾という小さな教育機関だからこそ、世の中の評価軸に流されるだけではなく、
自分たちは何を大切にするのかという「軸」を持ち続けたいものです。

それが結果として、生徒さんや保護者さんから
長く信頼される塾につながっていくのではないでしょうか。

【今回のまとめ】
・評価は大事だが、それだけに流されることのない教育を
・自塾は何を提供したかったのか、定期的に思い出しながら経営する

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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