【Vol.1017(2026.06.19)】その取り組み、その費用、何のため?

こども家庭庁が、予算の「全部見える化」に取り組む方針を打ち出したそうです。

<こども家庭庁、予算「全部見える化」へ 全省庁初 理解促進図る>
https://mainichi.jp/articles/20260616/k00/00m/020/226000c

同庁の予算をめぐっては、これまでも
「何に使われているのか分かりにくい」「無駄遣いではないか」という指摘がなされており、
それに応える形で徹底した情報公開をする姿勢を見せました。

全省庁の中でも初めての取り組みだそうで、なかなか画期的です。

このニュースを塾経営の視点で捉えるとき、
まっさきに思いつくのはやはり「お金の使い道の透明化」でしょう。

確かに塾業界でも、いわゆる設備費、維持費、諸経費とは
いったい何に使っているのかといぶかしむ声はありますし、
それらを「なし」にしている塾さんもあります。

しかし、今回考えてみたいのは、「人は何に対して不信感を抱くのか」という点です。

まず事実として確認しておきたいのは、こうしたお金の使いみちについて、
人は必ずしも「金額の大きさ」だけに強く反応しているわけではないということです。

行動経済学の研究では、同じ金額でも、
その支出の目的や文脈によって受け止め方が大きく変わることが知られています。

例えば私たちの日常生活で考えても、
数千円の出費でも「無駄だ」と感じれば強い不満につながりますが、
数万円でも「意味がある」と納得できれば受け入れられることってありますよね。

今回のこども家庭庁の件でも、多くの人が違和感を抱いたのは、
「いくら使っているのか」以上に「何のために使われているのか」が
見えにくかった点が問題なのでしょう。

つまり、目的の不透明さです。

これを、塾で考えてみます。

例えば夏期講習のコマ数を提案したり、追加の教材を勧めたりする場面もあるでしょう。

このとき、保護者さんが不満を感じるかどうかは、
費用の多寡だけで決まるわけではありません。

「なぜそれが必要なのか」に納得できるかどうかが、評価を大きく左右します。

仮に費用が上がったとしても、
「この子の現状を踏まえると、ここに手を打たないと次のステップに進めない」
という文脈が共有されていれば、多くの保護者さんは理解を示してくださいます。

一方で、同じ提案であっても、「とりあえずやったほうがいい」という曖昧な説明では、
たとえ金額が小さくても不信感は生まれやすくなるものです。

あくまで重要なのは、「何をするか」よりも「なぜそれをするのか」ということですね。

教育の現場では、どうしても具体的な施策に意識が向きがちです。

どの教材を使うのか、どのカリキュラムを組むのか、どれだけ授業を入れるのか……

しかし、それらはすべて手段に過ぎません。

本来伝えるべきは、「どのような課題を解決しようとしているのか」、
そしてそのためにどんなその手段を選んでいるのかという目的の部分です。

実際、教育サービスは即時性のある成果が見えにくい特性を持っています。

テストの点数や合格といった分かりやすい結果が出るまでには時間がかかりますし、
その過程には多くの変数が絡むものです。

だからこそ、保護者さんは「今この塾で何が行われているのか」を
直接的に評価することが難しく、そこが判断・共感できなければ不信につながります。

そのとき、保護者さんの判断材料になるのが「目的の一貫性」です。

この塾は何を目指しているのか、なぜこの指導をしているのか、説明にブレはないか。

こうした点が一貫していれば、多少の不確実性があっても信頼は維持されます。

逆に、施策ごとに理由が変わったり、その場しのぎの説明になったりすると、
「方便として言っているだけではないか」という疑念につながるでしょう。

さらに言えば、目的が共有されているかどうかは、生徒自身の学習姿勢にも影響します。

単に「やらされている」状態と、「自分の課題を解決するために取り組んでいる」状態では、
同じ内容でも学習効果は大きく異なりますよね。

いわゆる「自己決定理論」でも指摘されている通り、
人は自分の行動に意味を見出せたときに、より主体的に取り組むようになります。

つまり、目的の明確化は保護者さん対応のためだけでなく、
学習そのものの質にも関わる問題なのです。

そういう意味で言えば、映画「ベスト・キッド」でこんな有名シーンがありましたね。

師匠のミヤギが、主人公のダニエルに理不尽なペンキ塗りを課すものの、
実はそれが空手の修行につながっていたというお話です。

しかしそれは、「ペンキ塗りをさせられている」と不満を抱くダニエルの心理からすると、
自己決定理論的にはあまり効率的ではない指導なのかもしれません(笑)。

ここで一度、貴塾の現場を振り返ってみてください。

日々の指導の中で、「なぜこれをやるのか」をどこまで言語化できているでしょうか。
あるいは、それを生徒さんや保護者さんと共有できているでしょうか。

忙しい現場では、「とにかくやらせる」「結果が出れば理解される」という
発想に流れがちになります。

しかし、結果が出るまでの時間が長い教育においては、
その間をつなぐのは説明ではなく「納得」です。

そして納得を生むのは、金額の明細ではなく、目的の明確さと手段の妥当性です。

今回のニュースは省庁の予算の話ではありますが、
「人は何に対して信頼を持ち、何に違和感を抱くのか」という点で格好の教材になります。

そしてそれは、塾経営においても極めて本質的なテーマです。

「何をしているか」は見えるようにすることができるでしょう。

しかし「なぜそれをしているのか」は、意識しなければ伝わりません。
むしろ、そこが伝わらない限り、どれだけ見える化を進めても不信感は残り続けます。

だからこそ問われるのは、施策の中身以前に、
その背後にある目的をどこまで自覚し、言語化できているかではないでしょうか。

【今回のまとめ】
・人は金額の多寡よりも理由で判断する
・何をやるかも大事だが「なぜやるか」をきちんと開示しよう

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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