【Vol.634(2022.10.28)】表面的な学力と、塾のジレンマ

毎年行われている全国学力テスト。

同テストにおいてこのたび、秋田県と石川県の多くの学校で
事前対策を行っていたことが分かり、物議をかもしています。

<全国学力テスト 7割超える教員「事前対策」をしていたと回答>
https://www3.nhk.or.jp/lnews/akita/20221014/6010015665.html

「テストの事前対策を行って何が悪いの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
さすがに問題があると言わざるを得ないでしょう。

全国学力テストについては、過去の当メルマガ記事でも取り上げています。

新しい学習指導要領の内容定着にまだ課題があることと、
都道府県間の競争のようになっていることを問題視する内容でした。

(以前の記事はコチラ)
https://note.com/yasuta_rp/n/n29d5d8fcf628

さて、事前対策の何が悪いのかですが、上記過去記事にもありますように、
同テストの正式名称は「全国学力・学習状況調査」です。

「テスト」は便宜上の通称であって、目的はあくまで「調査」。

テストを実施することで、子どもたちの学力の現状を調査し、
今後の教育内容や授業内容を改善していくことが主旨です。

したがって、脚色のないプレーンなデータが重要であり、
事前対策などを行って得た「表面的な」好成績では意味がないのです。

極端に言えば、成績が悪かったとしても、
そこから課題を見つけ出すことができれば十分であり、
体裁だけ整えた好成績はかえって害悪となります。

しかし、調査によると両県の7割以上の学校で、何らかの事前対策を行ったり、
事前対策を行うように校長などから働きかけがあったことが分かっています。

事前対策の内容としては、過去問を解かせるほか、
中には先生自らオリジナル問題を作成してまで対策を行うケースも。

これを、授業時間を削ってまで実施していたことも判明しました。

さらに問題視されいるのが、石川・秋田の両県は、
同テストの都道府県別結果において毎年上位を賑わす、トップ自治体の常連だったこと。

これによって両県の教育内容が参考になるのではないかと、
報道などでも取り上げられてきましたが、
その有効性さえも根底から疑われることになってしまいます。

ただ上述したように、あくまで同テストは「調査」であるため、
結果としてそれが都道府県間の競争になるのは的外れであるのですが、
そうした誤った風潮が今回の一件に影響したことも想像できます。

おそらく現場の先生方も悪気はなかったのでしょうが、
常にトップであるがゆえに「順位を落とすわけにはいかない」という無言のプレッシャーが
あったのではないでしょうか。

このように、本質を歪めた学力向上では意味がないのですが、
私は今回のニュースを受け、「塾も似たような面があるかもしれない」と思いました。

まず大前提として、塾は民間の営利団体であり、
生徒さんの成績向上や志望校合格をミッションとし、
それに対して顧客からお金をいただくビジネスモデルです。

それはもちろん理解しています。

しかし、私たちが「勉強」と称して教えていることの一部には、
効率的なインプットの方法や、試験のヤマ張りなどもあります。

あえて悪い言い方をすれば、
テストで良い点を取るための「テクニック」を指導しているに過ぎないんですよね。

本当の意味での学力定着や、勉強が好きになることができていないのだとしたら、
今回の事前対策のような「表面的な対応」なのかもしれません。

「長期的な視野で見れば、この生徒さんのためにはこうしてあげたほうがよい」と思っても、
目の前の定期テストや入試を考えるとそうもいかない、というジレンマを感じた経験は
みなさんも1度や2度ではないと思います。

そう考えると、私たちは「子どもの学び」に何を残せているのだろう、
と自問せずにはいられません。

繰り返しになりますが、「それが塾だ」と割り切ることは何も間違っていません。
逆に、そこに対して誇りを抱いて仕事に向き合っておられる先生方もいらっしゃるはずです。

でも、成績向上はもちろんながら、学ぶ楽しさや、
これからの人生に活きるような「教養としての学力」サポートに貢献できれば、
こんな嬉しいことはないですよね。

塾に求められる「サービスと対価」を考えたとき、
できることとできないことがあるのは事実でしょう。

せめてその気持ちだけは忘れず、
可能な範囲で「学びの本質」を届けることは大事にしたいですよね。

みなさんはどう思われますか?

【今回のまとめ】
・表面的な学力向上だけで本当に良いのか
・子どもたちに本質的な学びを届ける気持ちだけは忘れずに

この情報をシェア
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

安多 秀司 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

目次