【Vol.1021(2026.07.03)】制度と人間は、常にイタチごっこ

当メルマガでも注目していたニュースの一つであった、
「大学の年内入試は面接必須とする」という文科省の方針。

名目上は総合型・学校推薦型選抜でありながら、
実質上の学力試験化した選抜も目立つようになっていました。

大学側の思惑としては「学生の早期確保」という切実な問題があったのでしょう。

しかし、高校学習指導要領の課程を終えていない生徒を学力試験で評価すること、
本来は多面的評価を目的としていた総合型選抜や学校推薦型選抜なのに、
その趣旨が果たされていないことを文科省が問題視し、これにくぎを刺した形です。

対して大学側がどう対応してくるかも注目されていましたが、
一部に動きが出始めたようで「学力重視型の年内入試」を取りやめる大学が出てきました。

<成蹊大、学力重視の年内入試取りやめ 面接の必須化受け判断>
https://mainichi.jp/articles/20260702/k00/00m/100/321000c

このニュースは、「文部科学省の方針によって大学が対応を迫られた」ことが
客観的事実なのでしょうが、「制度をつくる側」と「制度を使う側」の
終わりのない関係にも注目したいところです。

教育の世界に限らず、社会では新しい制度ができるたびに、
それを最大限に活用しようとする動きが生まれます。

良く言えば「最適化」、悪く言えば「抜け穴を探す」行為です。

例えば先述したように、総合型選抜は本来、
学力試験だけでは測れない資質や意欲、経験などを評価するために広がってきました。

しかし制度が定着すると、“多様な評価”の一環として
「学力を重視した総合型選抜」という形も現れ始めます。

大学側にとっては、一定の学力を担保しながら多様な入試を実施できる利点がありますが、
それが制度の趣旨とずれていると見なされ、今回の制度見直しにつながったわけです。

ここでは、どちらが正しいかを論じることはじませんが、
「制度ができると、その制度の中で最適解を探す人が必ず現れる」という
事実を忘れてはいけないと思います。

これは経済学や経営学でもよく知られている現象です。

例えば「グッドハートの法則」によると、
何らかの指標や数値そのものを評価や管理の「目標」にしてしまうと、
人は本来の目的よりも、指標の数値を上げること自体を最適化するようになると言われます。

「テレアポ件数」や「訪問件数」を評価目標にすると、
成約に繋がらない無意味な電話や訪問が増加する……といった具合です。

もともと学力を見るためのテストも、それが唯一の目標になれば、
「点数を取ること」だけが目的化し、本来育てたかった力が後回しになることがあります。

同じように、制度ができれば、
その制度の評価基準を満たすこと自体が目的になっていくのです。

これを塾の現場で考えてみます。

例えば、「宿題を毎日提出させる」というルールを設けたとしましょう。

しかしそれが目的化すると、答えを写してでも
「提出する」という体裁を整えようとする生徒も現れるはずです。

「確認テストで満点を取ろう」という仕組みをつくれば、
テスト範囲だけを暗記し、本当の理解がおろそかになることもあります。

あるいは、「面談を年3回実施しています」という塾があったとしても、
その回数を守ることが目的になれば、一人ひとりに必要な対話より、
「予定どおり面談を終えること」が優先されてしまうかもしれません。

もちろん、これらの制度やルール自体は悪くないと思います。

制度やルールがあるからこそ公平性が保たれるわけですし、
組織全体のマネジメントも安定するからです。

ただし、「制度の中で最適解を探す人」は必ず一定数いて、
その最適解が制度を作った側の意図と一致するとは限らないのが厄介なのです。

だから制度は見直され、また新しい最適解が探されるというイタチごっこに陥ります。

今回の大学入試にける面接必須化にしても、
「一次試験で学力試験を行い、その通過者に二次試験として面接を実施する」
という“最適解”が取られれば、実質的な学力試験と化す可能性もあるでしょう。

では、塾はこの終わりのない変化にどう向き合えばよいのでしょうか。

一つのヒントは、「ルールを増やすこと」「ルールを厳格にすること」より、
「ルールの目的を共有すること」にあるように思います。

例えば、「宿題は必ず提出してください」とだけ伝えるのではなく、
「宿題は理解できていないところを見つけるためのものだから、
分からないままでも構わない」と伝えれば、生徒の取り組み方は変わるかもしれません。

「確認テストは順位をつけるためではなく、授業内容を定着させるため」と共有していれば、
点数だけを追いかける姿勢を和らげられるかもしれません。

心理学上も、人はルールそのものより、「そのルールがなぜ存在するのか」を理解したとき、
自律的に行動しやすくなるというのは有名な話です。

いわゆる自己決定理論でも、
行動の意味づけが内発的な動機づけにつながると説明されています。

つまり、制度を機能させるのは制度そのものではなく、
その背景にある目的への理解なのです。

弊塾でも、「受験学年(高3)は毎日教室に来て自習」というルールがあります。

しかしこれが形骸化してしまえば
「とりあえず教室には来ているというアリバイ作り」が横行するリスクもゼロではありません。

だから私たちも、生徒さんや保護者さんに「なぜ毎日来なければいけないのか」を
事前にしっかり説明し、その同意を得るようにしています。

日々の塾経営では、新しいルールをつくることは珍しくありません。

講師向けの指導マニュアル、生徒さんとの約束事、保護者さん対応の手順など、
増えたり改善されたりしていくものだと思います。

しかし、ときには少し立ち止まって考えてみませんか?

そのルールは、本当に目的を達成するためのものになっているでしょうか。
それとも、いつの間にかルールを守ること自体が目的になってはいないでしょうか。

制度と人との関係に「完成形」はありません。

だからこそ、制度をつくること以上に、「なぜその制度があるのか」を問い続ける姿勢が、
教育には欠かせないのではないでしょうか。

【今回のまとめ】
・制度とその“最適解”を探す人のイタチごっこは、必ず生まれるという前提に立つ
・制度やルールの目的を共有することから始めよう

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◆あとがき<クライアント塾さんからオンライン授業>

先日、岡山県のクライアント塾さんをコンサル訪問させていただいた際のことです。

月1回ペースで定期訪問させていただいているのですが、
今回だけイレギュラースケジュールとなり、いつもと異なる曜日で伺うことになりました。

しかしその曜日は、夕方から弊塾生のオンライン授業の予定が入っています。

そこで、コンサル終了後にその塾さんで1室をお借りして、
そこからオンライン授業を実施させていただきました。

場所をご提供くださりありがとうございます!

いやー、それにしても本当に便利な世の中になりましたね。

ちなみにその生徒さんは横浜在住。

兵庫県の塾(弊塾)に在籍する、横浜の生徒さんに、
岡山から授業をしているわけですから、不思議な感覚です。

10年前なら考えられなかったと思います。

これだけ場所を選ばず仕事ができるようになれば、
大好きな沖縄や北海道への移住も夢ではないかも!?

その前に妻の説得が鬼門ですね(笑)。

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安多 秀司のアバター 安多 秀司 株式会社リアル・パートナーズ代表

大学卒業後、京都・滋賀・大阪・兵庫等に教室を持つ「成基の個別教育ゴールフリー」に入社。
最年少教室長として、川西教室(兵庫県)で3年間務める。その後、「スタンダード家庭教師サービス」を運営する株式会社スタンダードカンパニーに入社。「個別指導塾スタンダード」の立ち上げに尽力し、事業責任者として30数教室の 新規展開を行う。
その後独立し、平成20年7月「個別教育フォレスト」を設立。開校1ヶ月で35名の入会があり、わずか1ヶ月で損益分岐点を超える。現在はキャンセル待ちの塾として地域No.1の個別指導塾を運営している。
今でも現場主義を貫き、常に通塾中の顧客に対して満足度を高める工夫を実践している。

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